© 上田 宏
ガレージ
設計開始時、Sさんにはガレージは要らないと伝えていた。
心の底からそう思っていたわけではない、軽井沢は冬になれば晴れていても霜が降りる。毎朝通勤前にフロントガラスの霜取りをすると思うとげんなりだれど、耐震性能、断熱性能の要求と、坪単価を考えると残念だけど無理だなという気持ちだった。
2台分のガレージが、相当な面積を取り横長の間延びした形になるなという想像もしていた。
Sさんからの第1案には、その諦めたはずのガレージがあった。雨雪の日、荷物や子供の積みおろしや霜取りを考えると、玄関横にあったほうが良いという提案だった。
壁は2方向だけ、長い車だと鼻先が出るけれど、全体の意匠は恐ろしく整っており美しい。僕としては屋根がかかっていれば、冬の霜とりはしなくていいので壁はいらなかった。広いスーパーの駐車場で1台分横幅2.5m、それで壁を作ると圧迫感があるが、壁がないことで限られたスペースで成立している。
外物置
自然の中に住むには、都会では使わない様々なものが必要となる。草刈機、ブロワー、チェンソーなどを持っている人は多いし、雪かきや車の雪下ろし棒などは必需品だ。
そこで泥のついたままでも出し入れできる外物置をあらかじめ作ってもらった。
前述の必需品に加え、キャンプ用のテント、タープにチェア、薪割り斧、オイルから、スキー、スノーボード、そして車社会でめったに使わなくなったベビーカーまで収納されている。
設備置場
接道と配置の関係上、外壁北面だからといって裏側にはできない。3面ファサードで、設備が見えていい場所がないのだ。考えた結果、外物置の一部を設備置場とし、そこに収納することにした。
縦長に開口された信州カラマツの扉の奥に、マルチエアコンの室外機と、エコキュートのタンク、室外機が収められている。こういった扉を無垢材、しかもよく動くカラマツで作るのは難しいらしい。当初は扉の裏側がしっかりしすぎており、エコキュートの室外機によって冷やされた空気が滞留したので、開口率を高めるため改造した。
軽井沢の第一種低層住居専用地域の場合、ほぼ都市ガスは供給されていないのでプロパンガスによる給湯か、エコキュートか迷うことになる。もちろんエネルギー源をどうするかという問題は、給湯だけで決まるものではなく煮炊き、オーブン、衣類乾燥機で決める人もいると思うが、我が家の場合は緊急時に生活用水を確保する観点からエコキュートにした。
エコキュートのタンクには460リットルの温水が貯蔵され、災害発生時など断水の場合には、タンクの下部から生活用水を取り出せる。
振り返ると、コンペもせずお願いした建築家の第一案で、躊躇なく決めることができた背景にはガレージの存在があった。
それは雨や雪の日に子どもを抱えながら荷物を降ろし玄関を開ける大変さと、この位置に車を停め扉を開ける利便性が瞬時に想像でき、設計にあたって実際の生活を考えてくれているんだという確かな安心感を得られたのももちろんだけど、やっぱり心の底では自分の家を建てるなら「ガレージ」が欲しかったんだと思う。
80年代前半生まれのギーク達にとって、ガレージは特別な意味を持つ。ヒーローが仲間たちとコンピューターを作り革命を起こした物語はあまりにも有名だ。
いにしえのオタク少年は何者にもなれないままいつしか夫となり父になった。世の中をあっと言わせられなくても、ガレージさえそこにあれば、いま欲しいものを作ることはできる。
この年になってできた仲間たちと一緒に。
奥様方に臼で餅つきしたい!と言われてみつおじさん@mi2wo_ow2im と大人の工作開始。冗談だとお思いでしょうが僕らは大マジです。
オークでついた餅を食べたことがあるか?と考えだすと楽しくてたまりませんw pic.twitter.com/HAWkNToUHU
— shiro (@ki460) November 23, 2019
外壁:信州カラマツ
塗装:オスモカラークリア2度塗り
扉:建具造作
倹飩:大工造作
電気自動車用コンセント:Panasonic