美しくエコな生活を賃貸でも。 六花荘着工のお知らせ

このブログを読んでいただいている皆さんお久しぶりです。
前回のエントリーで最終回の予定でしたが、お知らせしたいことがあり更新します。

御影用水エコハウス完成から3年、この家を設計いただいた暮らしと建築社さまと共同で賃貸住宅を作ることになりました。

日本の住まいに対して感じてきた疑問を、私たちなりに解明し皆さんに見てもらいたいと思い、簡単ではありますがサイトも作りました。

サステナブル集合住宅 六花荘

着工の挨拶をFacebookより転載します。

 
サステナブル集合住宅「六花荘」着工のお知らせ

地方の賃貸で起きている「環境負荷が高い」「非健康的である」「安全性が低い」という課題を解決する集合住宅を、軽井沢町発地に建設します。

一昨日、無事に地鎮祭を迎えることができました。神主さんに促され、真夏より幾分柔らかくなった日差しを背中に感じながらそこに立つと、森から抜けてくる風の匂いに、3年前自宅を建てるため初めて地鎮祭した時のことを思い出しました。

よく家は3軒建てて初めて満足するものができると聞きます。僕はとても3軒建てるなんて考えられないので、1軒目から全力で家づくりしました。人柄と才能が素晴らしい建築家さんとのご縁をいただき、また元来のオタク気質もあり美しくエネルギーを使わない、いい家ができました。毎年11月の国際パッシブハウス・オープンデイには「御影用水エコハウス」として公開、見た人や聞いた人に断熱の輪が広がっています。

さて住み始めて感じたのは、自分と家族だけエコで健康的な生活を送っていていいのかという疑問です。引っ越したのは2018年11月下旬でしたが、実家や、これまで賃貸で暮らしていた家と全く違い、冬に脱衣所や廊下で寒い思いをすることなく、無暖房でも朝起きると20度近くあります。札幌より寒い軽井沢で、メインエリアの暖房薪ストーブのみ、外気マイナス10度の朝でもです。最新テクノロジーを投入したわけではなく、数十年前から確立している技術で高断熱高気密の家を作っただけなのですが、暖かく結露しない健康的で快適な、しかも冬の光熱費が半分以下に下がる建物ができました。もちろんこの2年間脱衣所やトイレ、廊下で寒い思いをすることはありません。別に特殊なことはしておらず、ただ断熱をきちんとしただけなのに「もしかして一部のプロを除き、住宅業界の人を含めてほとんどこうした家づくりを知らないのではないか」という考えが頭をもたげてきました。

家づくり初期にふらっと入った展示場で大手ハウスメーカーの営業は自社全館空調の光熱費を説明できませんでしたし(その自慢のシステムは低圧電力4kW契約だったけれど、電灯と動力の違いも知らなかった)、いくつかの工務店に「省エネ最上等級の4だからあったかい」とか、「樹脂トリプルはオーバースペック」、「気密が高すぎるとカビの事故が怖い」などと定量的な根拠なく何度も否定された経験もそれを裏付けました。欧米や北海道で数十年前から普及している理論について質問しても、きちんと答えられる人は一部のみで、適切な知識がありません。いわゆる業界の人々でも断熱された建物を施工したり、住んでいる人が少ないのだなど実感しました。

振り返ってみると、東信地域にパッシブハウス・ジャパンの賛助会員がまだおらず、自ら加入して住宅のエネルギーシミュレーションソフトと計算手法を習得していました。その家づくりが終わった今、タイミングよく(笑)自社の賃貸借期限が切れようとしている。10年前にリフォームはしたけれど、冬の朝出社すると室内がキンキンに冷えていて、始業1時間まえからガスストーブを炊かないと過ごせない室内。日中もアルミドアからの冷気でじっとしていると体調を崩すので、なるべくこまめに外出するようにしていました。断熱がなく土の上に木をはっただけの床に並べたデスクの足元には、1000Wの電熱線ヒーターがあり、室内はエアコンと都市ガスのFFをつけても寒い場所があるので灯油ファンヒーターを何台も置いていました。

家づくりで実感した断熱と日射取得のパワーを、いま再び使う時が来た。

そうして2つ目は自分と家族だけでなく社員が健康で生産性高く過ごし、災害にも強い会社とするため、社内で作った図面を捨て自宅と同じ建築家さんにお願いし、家の改善点も踏まえアップデートした高断熱高気密仕様で建設しました。一般的なやり方で、美しく災害に強く性能の高い施設を作るととてもお金がかかります。でも家を作ったことがあったので、エコハウスの考え方で断熱して躯体性能を上げることで、冷暖房のため細かく区切る必要のない空間を実現、スペース効率を高め床面積を減らして建築コストを下げます。さらに設備容量が小さくなるので冷暖房設備の初期費用とランニングを大きく減らしました。元がエコハウスなので大きくても地域の大工さんで建てられる点もプラスに働きました。

おかげさまでいい建物ができ、冷暖房換気だけでなく家電、サーバ等OA機器まで含めてゼロを超えプラスエネルギー、太陽光買取価格は13円/kWhですが光熱費も(まだ一年経っていませんが冬の厳しい条件をみて)ゼロどころか収入が多い建物ができています。もちろん以前のように倉庫やトイレに行っても寒い思いをすることは無く、夏狭い給湯室で熱い思いをすることもありません。県外含め各地から、行政機関や設計事務所、施工会社の視察が相次いでいます。オフィスでは新しいテクノロジーにも挑戦はしていますが、根本的な性能を支えているのは30年前から先人たちが取り組んで来た「高気密高断熱」であり、もうそれは確立した技術であり、誰もが真似しようと思えばできるオープンな工法です。

その新本社で、断熱効果による温度差のない環境で快適に仕事を始めて1カ月たたない12月の夜のことです。事務所の町内で火災が発生し、一軒家が全焼。4人の子どもたちが亡くなってしまいました。消防によると火元はストーブの近くに干してあった洗濯物ではないかとのことです。

東信地域は寒いと言っても北米やヨーロッパの寒冷地のような気温ではありませんし、断熱すれば就寝時無暖房でも起床時18度確保できます。しかも年間日照時間が長く日射取得や太陽光発電、太陽熱利用に向いています。このような恵まれた地元で悲しい事故が起き、地域の大人として責任を感じました。

石油ストーブのような開放型暖房を室内で使用しているのは先進国では日本だけだと聞きます。確かに海外ではみたことがありません。

このニュースを見た瞬間に3番目を建てること、それは賃貸住宅であること、これまで2建物のノウハウを投入して高断熱と採算性を両立し、安全で健康的でエネルギーを使わない暮らしを実現することというコンセプトを決めました。
どこに建てようか計画をはじめたタイミングで、自宅とオフィスをお願いした建築家さんから、逆に軽井沢町での賃貸共同企画、経営のお声がけをいただき、1月から事業検討を始め3月に土地を契約。やってみて正直なところ土地から取得なので赤字にはならない程度になればいいという感じですが、これから世の大家さんも脱炭素時代における資産価値という視点からこうした建物を作りたい方が増えるでしょうし、いい見本になりたいと思います。

六花とは雪の結晶です。軽井沢の冬は寒く厳しいけれど、この6戸では厳しいだけでなく冬の自然にある美しい側面を感じながら暮らせます。新たな建物が、脱炭素を進めその美しい自然環境を守り、これからの住まいのあり方を示す存在になることを願い名づけました。

家づくりを始めた最初はそんな気なんて全くなかったのに、施主として3度目の地鎮祭を迎えることになりました。僕がこの日を迎えることができたのは、探究が強い自己意思で結実したわけではないでしょう。縁がつながり、たまたま発露したというのが正直なところだと思います。まあでも面倒な生き方かもしれませんが傍観者にならず、自ら参加するのが僕にはあっています。結果省エネ、快適、安全な建物を賃貸として提供できることになりそうで、ワクワクしています。

大家になる機会をくださり、設計して下さった暮らしと建築社さまに感謝し着工のお知らせを結びます。