つぎ建てるなら:可変性のある電気・通信・設備ルート

コンセプトの段階で「可変性」については並々ならぬ意欲があった。家のロングライフデザインを実現するためには、長い年月の中での用途変更に対応したい。超高断熱により子ども部屋を作る程度のことは間仕切りだけすれば空調は不要だが、それ以上のこと:数十年後にはお店を開業したり、地域のために何かしているかもしれない。

いつかやりたいことがある、というわけではないのが難しい。僕ら夫婦は生き方、好みの暮らし方がはっきりしている方だと思うけれど、働きマンだったころ、10年後には子ども3人と森の中で暮らしているなんて想像できなかった。

それに建物の寿命を長くしたいと考えるのなら、住まい手が変わる可能性も考えるべきだろう。

建築中のわが家を毎週末のように子どもたちを連れ見に行っていたが、そこにいるとペットと散歩中の人がよく声をかけてきた。美しい環境で歩いて楽しく生活できる立地に居を求めた結果、立地と外観からカフェかレストランと言った飲食店を建築中と思っている人が多く、僕の考えを裏付けた。

過去にいくつもオペレーションルーム構築やオフィス移転、BCP対応強化などのPMをやってきたこともあり、どうすれば建物に可変性を持たせられるかイメージはあった。
それは床下空間を広くし、分電盤や設備まわりを露出でつくることで将来簡単に作業できるようにし、用途変更による電気通信や給排水の新増設に対応できるようにするというアイデアだ。テナントビルなどは垂直方向をPS(パイプ・スペースまたはパイプ・シャフト)という専用区画にしておき新増設に対応するスペースを設けている。そこから各フロア内にある部屋へは、フリーアクセスフロアと言って、床下に電源通信の配線するスペースを設けた上げ底になっていて、床を外して配線ができるようになっている。

といってもさすがに家でフリーアクセスフロアを使うつもりはなかった。住宅用として使う価格ではないし、そこまで頻繁にレイアウトを変更するつもりもない。無垢のフローリングで、床下の空間を、人間が配線工事できる程度確保できればほぼ同じことはできる。欲しいのはこれまでの経験からスラブ~大引き間高さ600㎜。そう決めてコンセプトに書き込んだのだった。

さて、僕が作ったコンセプトには大いなる欠陥があった。
ブログの下記エントリにも赤字で注釈があるように、コンセプトづくりの段階では一切予算を考慮していないのだ。
はじめての家づくりで施主が陥りがちな罠だが、住宅の経験がない建築素人とはいえ、自称腕っこきのPMなのだから「よもやよもや不甲斐し」である。

美しく、高性能で、暮らしに寄り添う家

そうして最低600㎜の設備スペース高さ確保というスペックは、耐震等級3を確保するための配筋が入ったゴツイ基礎の前に「宝くじが当たったら」と同じ類の夢物語に消えた。残されたのは「フラット35対応 木造住宅工事仕様書」(住宅金融支援機構)での長期優良住宅に準じた定め※による、床下空間の有効高さ330㎜以上ということで高さ350㎜となった。 

この程度の懐寸法だと潜っての変更作業はかなり困難だ。浴室下の状態確認や、ワイヤレスセンサー設置程度なら這いつくばってなんとかするものの、大掛かりな工事はできない。

それから2年後、もうお分かりだろう。
オフィスでは基礎立ち上がり高さ850㎜を確保した。直前で断熱材が基礎内側に来たが、それで100㎜とられてもなんてことない。
実際書庫に掃除機を充電するためのコンセントがないことに気がつき、後から壁コンセントを追加したが何の問題もなく隠蔽配線で工事できた。

フリーアクセスフロアは高価なためデスク下に通線用の穴をあけ立ち上げている。
デスク用のハーネスに至っては増設の手間はOAフロアとほぼ変わらない。潜ると言ってもこれだけスペースがあると楽勝、通信の変更も簡単。

縦配線はラダーを設け倉庫内露出にしている。
電気。通信とも壁の中に入れないことでその後の構成変更がスムーズにできる。

(配線で見る人が見るとあーと思う部分はセキュリティカメラの増設が完了したら直す予定)

一番良かったのは換気ダクトルートが確保でき何かあっても容易に確認交換可能なことだと思う。やはり費用最適の観点から断熱性能の向上に取り組むと、天井内断熱としてブローイングで厚みを確保したくなる。その際にダクトはどうしても邪魔な存在だが、きちんと換気空調を考えるとダクトを入れたくなるものだ。

商業用としてコストが限られる中で可変性を担保しつつどうしてもマイナスカーボンなオフィスにしたかった。よい建物ができたと思う。

※わが家はフラット35S金利Aプランを耐震等級3にて適用したが、耐久性・可変性に関する仕様も基本準じるようお願いした。