ディテール:外壁

家の美しさに係る部分は全て建築家にお任せすると決めた僕ら夫婦は、外観形状同様、外壁についても材質や色のリクエストはしなかった。
詳細設計でカラマツにしたいと聞き、木の種類に詳しくないこともありどんな木か調べてみた。

全国で3番目の森林面積を誇る長野県。その森で最も多い木が、寒さに強く杉やヒノキの育たない高地でも育つことのできるカラマツ。
一番気になる、木を外壁に使って腐らないのか?という点については、海や河川の工事用資材にも使われるほど水には強い材だという。

1999年に旧丸ビルが取り壊された時に、1920年(大正9年)に生木のまま埋められた地中杭の松柱が、約80年の時を経て三菱地所により地下から引き抜き調査が行われた。
目立った腐食なくほぼ当時のままの姿を見せた脅威的な生命力の松が、2002年に完成した現在の新丸ビルに展示されているのは有名な話だ。

工事終盤のとある週末。まもなく引き渡しになるのを待ちきれず、子どもたちと一緒に現場を見に行った僕らの目の前に、足場が外された外壁が真新しく輝いていた。
カラマツの板目に樹木が影を落とした様子はただただ美しいが、クリア塗装されたその表面は繊細で、森の中に建つ姿もどこかまだ居場所を探しているかのような違和感を覚えた。

カラマツ外壁

そんな僕の思いを察したのか、大工さんが「数年たつとそれはそれで渋い、いい感じになると思います」と言う。窯業系サイディング等、一般的な外壁材と異なり、経年によって味わいが出るのが無垢材の外壁のいいところだ。

鬼海弘雄さんのポートレートが頭に浮かんだ。たまたま通りがかった人のモノクロ写真にそれぞれの栄光や挫折、悩みや苦しみを見つけ、美しさを感じるのではないだろうか。もし修正によって皺のないつるつるの肌になっていたら、僕らはそれを好きになれるだろうか。

この家は風雨と寒暖、紫外線にさらされ歳をとっていく。僕らと一緒に。

 

子どもたちは足場とシートで囲われていたこれまでの現場から、予想外に対面した家の姿にはしゃいでいた。

カラマツってどんな木だろうと調べた中で、森林資源について書かれたテキストがあった。木は切らないほうが環境にいいというのは素人の思い込みで、人工林は間伐しないと密集したまま樹木が細くなり、根も伸びず土砂災害に弱くなる。また高齢化した木は二酸化炭素の吸収量が低下する。
地域の材を活用することで地元の木材関連産業にお金が落ち、土砂災害に強く二酸化炭素も多く固定できる森が循環する。

地域材利用の仕組みづくりは急務だという。木を循環利用して、これから子どもたちの世代にも森を残す。
「美しく、高性能で、暮らしに寄り添う家」を建てたいという僕らのリクエストに、建築家は素晴らしい答えを用意してくれたと思う。

ふと見上げると、外壁色に合わせて使い分けられた釘が、押縁に一定のリズムを与えていた。

 

仕様
外壁:脱脂カラマツ押縁押さえ
塗装:オスモカラー(外装用クリア)2回塗装、キシラデコール(ブラック)2回塗装
釘:SUS丸頭 
 

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