つぎ建てるなら:断熱

もちろん、断熱性能をあきらめたわけではない。
以前御影用水エコハウスの断熱についてはフェノールフォーム+硬質ウレタンにしたと書いた。

断熱工事

自宅は自社で建てることにしたが、基本的に住宅新築は営業しておらず5年以上実績もないことから、最も断熱気密の点で作りやすく確実な構成を考えた。

充填断熱で密度、透湿抵抗の高いものを選定することにより、専門業者の責任施工で欠損のない断熱施工と適切な気密施工が同時にでき、防湿層の工事が不要となる。また付加断熱は性能の高いフェノールフォームを使うことで、外壁の厚みを抑える大工工事のしやすさを優先した。

その時点で以下のデメリットは承知していた。
 ・硬質ウレタンは燃えやすく、さらに燃えると有毒ガスが発生する。
 ・フェノールフォームはグラスウールと比較しコストが高価である。

1点目に関してはオール電化で内装は紙クロスの下に石膏ボードが覆っている。電気工事を監理し絶縁測定、通電時にサーモカメラでチェックして使っていれば壁内で火は起きない、あとは雷だが家の周りはもっと落雷に適した樹木だらけだ。
2点目に関しては付加100ミリ以上と慣れないことをして、外壁の保持力や地震時の荷重等を気にするよりは高価でも薄いものを使おうと考えた。

十分納得して構成を決めたものの、実際に工事が進むにつれ非常に精度が高い大工工事を見て、確かにわが家は入り組んだ部分が極めて多かったけれど、グラスウールでも問題なく欠損せずに断熱できたのではないかという違和感が日に日に大きくなっていった。

またリビルディングセンタージャパンや、山翠社といった、古材を美しく生かし次の世代につなぐ活動を見ていると、いくら長寿命な家といえどいつか考えなくてはならない解体時に、ウレタンを吹き木材として、そして燃料としても再利用できなくするのは、他に代替手段があれば避けたいと感じたのも事実だ。現場発泡ウレタンを吹いたあと、わが家の現場でしんとした不思議な静寂に包まれた中、それが美しいのかどうか自問自答したし、いま当時の写真を見てもやはりその気持ちは残っている。

趣味でさまざまなエコハウスの現場をめぐるなかで学んだ、付加充填とも繊維系断熱材を使い、外側透湿防水シート、ボードでも気密を取りさらに内側調質気密シートで気密を取る。それでC値0.1台を記録する、さらに省令準耐火、新住協のお手本のような構成を次はしたい。

コストや有毒ガス、解体時の再利用ということもあるけれど、そこには毎年資金力に物を言わせて補強している野球チームを、巧みな育成と戦術で破るかのような美しさがあると思う。

あるいは黎明期のレースにおいて、資金力に劣るプライベーターが知恵と工夫、レース運びで活躍していたら、僕はそれを応援するだろう。

さて、そんな試合は子どもの手が離れてから、沖縄か鎌倉あたりに運が良ければできるかもしれないと妄想していたら、意外に早く機会をつくることができた。

2020年11月に完成した自社のパッシブオフィスでは、付加、充填とも高性能グラスウール断熱という構成にトライした。
壁付加断熱 グラスウール 105mm

壁充填断熱 グラスウール 105mm

四角くない部分に、きれいに入っているグラスウールに萌える。

天井充填断熱 吹込グラスウール 300㎜(屋根付加断熱はポリスチレンフォーム断熱材3種bA 165㎜)

グラスウールはコストは安いものの施工の腕によって性能が左右されるとはよく聞く話だが、透湿防水シートにタイベックシルバー、構造用合板、調湿気密シートが美しく施工され、電線等貫通部の処理も丁寧にしている。

実際、気密測定結果はご覧の通りだった。

僕の考えとして何が何でもウレタンはダメだとは今でも考えていない、断熱工事の経験が少なかったり、あるいはもともとの気密が低い古民家など断熱改修では大変有効だと思う。実際御影用水エコハウスのすぐ後に、リノベーションが行われたリビセンエコハウスも、その改修にはウレタンで充填断熱している。

木材に対してサスティナブルでないという気持ちはあるけど、少なくともこの寒冷地で年間暖房需要25kWh/m2a以下、冬は薪ストーブだけで暮らすエネルギーを使わない家ができている。フェノールフォームだって高いけど天井の構造を見せるなど、外張りで数字を出す場合には使いたい。断熱材の種類はプロジェクトごと選択されるべきでありグラスウールやロックウール、セルロースファイバーや羊毛など、これが唯一いいと主張しているのはポジショントークだ。

それは個人のブログだから書ける本音の気持ちだし、顧客が他社と比較検討する中で少しでも差異化、自社を訴求しなくてはならない工務店、建設会社にはなかなか言えない話だと思う。他に比べて全くメリットがない、なぜ選ぶかわからない断熱材は確かに存在するが、それぞれの特徴と施工者の腕を含めたプロジェクトの特性で選定されるべきだ。

適切な施工ができる前提で言えば、新住協方式が多くの場合で解だ。しかしあと数年もすればよほどレベルの低い工務店を除き、顧客の要求、淘汰により、どこの会社でもG2が出せるようになるのではないか。その時は断熱材の種類が、これまでのような訴求力を持つかはわからない。

むしろよい断熱性能は当たり前となり、施主が種類や厚みなど悩むことなく家づくりに向き合えるようになった時、大切にされるものの中に住宅の本質的価値があって欲しいし、オーダーメイドの建築家や実力のある工務店の時代が来るだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)