災害対策 - 停電時に自宅での生活を成立させるため、薪ストーブを設置することは決めていた。ただそこから先、機種選定に最も迷走した設備だと思う。どの機種にしようか迷ったのではなく、どう選んでいいかわからず迷った。
最終的には超高気密高断熱に対応した吸気外気導入方式の中で、以下内容を点数化しいくつかの機種をピックアップ、実物を見に行き、最後は見た目の好みでヨツール F305Bを選定した。
パッシブハウスにおける薪ストーブの選定について
外気導入直結タイプは、今や大概の輸入ストーブでオプションとして選べる。ただ、設計時から外気導入が標準な機種は多くない。F305は設計が新しいこともあり、その数少ない外気導入標準のモデルだった。外気導入のパイプがうまく隠せるようにか、同色の物入れもセットでうまくデザインされている。(4本足のタイプもある)
実際に使用してみると火力を上げるときは室内からも吸っている。スキャンサームのいくつかは室内空気に依存しないモデルがあるので、それを選んだほうがその点だけ言うと良いかもしれない。
高性能住宅と薪ストーブの組み合わせについて、ネットで諸説あるのはいつものことなんだけど、薪ストーブ販売店や国内の製造者に聞いてもはっきりした答えがなくて困る。彼らとコミュニケーションする中で感じたのは、超高断熱高気密住宅の知識不足というより、全体最適か個別最適かの視点の違いだった。
とある国内の販売店を訪ねたときのこと。薪ストーブの燃焼効率や、立ち上がりの速さなど本体については饒舌に語るのに、外気導入について聞くと冷たい空気を薪ストーブ内に入れたくないという。
それは薪ストーブ内での燃焼だけ考えればその通りかもしれない。でも家全体がシステムで薪ストーブはその一部に過ぎない。外気を薪ストーブに直接導入しないなら、薪ストーブはどこから空気を吸うのか。当然室内からになる。室内が負圧になって気密の弱いところから空気を引いてしまい、当然その周りは結露する。
そう僕が質問すると、そもそも薪ストーブは超高断熱高気密には向いてないし、それでもつけたいなら窓を開ければいいと言われたのだった。
断熱気密施工して、第1種熱交換換気をつけそうして暖房負荷を減らした上で、さらにカーボンフリーのエネルギーを使おうとしているのにそれはないだろう。視座が低すぎる。
真剣に考えて薪ストーブを設計してもらいたいと思う。
超高断熱高気密住宅が普及しているパッシブハウスの本国ドイツや北欧のストーブはどうか。残念ながら薪ストーブメーカーのサイトを見ても、薪ストーブのどこから吸気してどう燃焼、二次燃焼するかいまいちわかりにくい。HWAM,TONWERKの断面図みたいなのをもっと詳細にしたものが全部にあるといいんだけど。一番気になる本体の密閉性について書いてあるのは日本語だとスキャンサームくらいだった。
僕は杉、ひのき、黄砂、よもぎ、ネコ、ダニ、ハウスダスト等のアレルギーもちで、アレルゲンにはかなり敏感。野焼きの煙はもちろんだめだし、薪のいぶりも苦手だ。だからストーブを見に行けばすこしの煙臭いのはすぐにわかるし負圧や密閉性は敏感に感じるセンサーが備わっていた。
いくつかの項目でF305を候補の一つに選び、ドキュメント上のスペックとしてはスキャンサームやワムの方がよかったが、実際に見に行くとF305もなかなかしっかりした密閉で匂いは感じなかった。しっかりした扉で消耗品を適切にメンテすれば問題ないことが製品でも確認できた。
候補の中で排気が一番クリーンだと説得力があったのはHWAMのオートパイロットHIS。自動車が環境規制の為キャブレターからインジェクションに変わったように、薪ストーブも突き詰めればセンサーからの情報で制御する時代が来るのかもしれない。個人的には薪ストーブを停電時の暖房、料理といった災害対策の側面もあり電源を引くのは好まなかった。自動車にオルタネータがあるように、薪ストーブ本体がバッテリーを搭載し、電力を作れるようにすれば、これまでと同じ感覚で使えるけれど、とんでもないシステムになるので好みでは無いかな。
それよりは蓄熱タイプだとか、パッシブハウスクラスの性能だと暖房需要だけではこの寒い軽井沢ですら朝だけとか夜だけ数時間火をつけるだけで1日中焚くことはないので、給湯を賄うタイプも有力な検討候補となるだろう。
暖房性能か薪の大きさか
薪の対応サイズは重要な評価項目とした。
薪づくりの4工程 ①伐採 ②玉切り ③薪割り ④乾燥のなかで一番億劫なのが「玉切り」作業ではないだろうか。(乾燥も面倒だけど簡単に生産性向上できない)
エアコンのように単純に暖房性能で選定すると、高性能住宅の場合小さな薪ストーブが候補になるが、対応サイズが30cmになってしまう。
F305は仕様によると41cmまでの薪に対応だった。
日常的に入る薪が小さいのは本当に不便、40センチと30センチでは玉切りの回数が1.33倍になる。また初年度など購入する薪が30cmだと入手性が悪い。運良く譲っていただけることになっても諦めることになるかもしれない。
実際に薪ストーブ生活を始めると、友人たちと薪作りをするのが楽しみの一つとなった。その際、原木から玉切りで切り出すのも自分だけ30センチというのは不便だろうと思う。
めちゃ乾いてる、これはありがたい新築祝い㊗️㊗️ https://t.co/2JPBlhxNpT
— shiro (@ki460) December 16, 2018
暖房性能がオーバースペックにはなるが、しっかりと朝だけ炊きその暖かさをキープして日中や夜はつけないとか、晴れた日は日射取得で暑くなるので朝から点火せずに過ごし、夜1回だけ燃やすなど、燃焼する時間を少なくすることで対応できるのも高断熱住宅ならでは。
針葉樹が燃やせるか
もともと雑木林に埋もれたアトリエを撤去した我が家には、解体時に伐採された大量の原木があった。6割が針葉樹のアカマツ、4割が広葉樹で楢と栗だった。針葉樹が適さない薪ストーブもあると聞き、針葉樹が問題ないものかどうかを評価項目とした。北欧の森は針葉樹が大半とのことで、選定リストに乗ったどの機種も問題ないですよとの回答は頂いていた。
触媒の有無
触媒があると、交換のお金がかかる。それだけ聞くと迷うまでもなさそうだけど、クリーンバーン(触媒レス)方式は燃費が悪いと一般的には言われている。やはり薪ストーブで本格的に暖房するなら触媒有りがいいとネットには書いてある。
ただこれもクリーンバーンのデメリット「燃費が悪い」がどうしてそうなるのか、熱量に対する消費量で比較し議論したいところだが、自動車雑誌でよくある実測比較といったものは見当たらなかった。比較表にEN13240でのEfficiencyを入力して比較したけど、決め手の項目にはならなかった。
我が家は解体時に作った薪が大量にあり、本当にクリーンバーンの燃費が悪かったとしてもそれほどのデメリットにはならない。面倒な部品がなく交換に費用がかからない方が、我が家の状況ならいいと考えた。
実際に1年暮らしてみて、断熱性能が良いので薪が多少早く燃えていたとしても、点火し数本が燃えて消え、その熱が部屋から奪われないまま1日過ごす事が多い。日射取得できる地域の超高断熱住宅では、普段の生活で燃費は気にならない。
料理
我が家では災害対策の観点から、停電時に料理できることが必須だった。ただ、住み始めてみると、日常的な効用を強く感じる。そもそも、パッシブハウスのような超高性能住宅になると、暖房の為だけに薪ストーブが必要かというとそれは否だ。もし冷房のため1台エアコンを導入してしまえば、それで暖房も賄える。
少なからず情感的な理由で導入するはずだから、災害対策抜きにしても料理はできたほうがいいと思う。遊びに来るゲストも薪ストーブで料理するともてなし感出るし、ただの暖房と違って普段の生活にも彩りを与えてくれる気がする。
日曜なのに天気がすっきりしない午後、子どもたちとポップコーン作って気を紛らわせた🍿#軽井沢薪ストーブ料理 pic.twitter.com/Y4Qev8hLZW
— shiro (@ki460) March 17, 2019
材質、鋼板が鋳物かソープストーンか
一般的に鋼板製が立ち上がりが早く、鋳物が遅いとされているが定量的な評価を見つけられなかった。薪ストーブは、FF式の暖房機器と違い電気で強制的に吸排気しているわけではない。温度差によってドラフト効果により排気し吸気口から空気を引く燃やし方が理想で、早めに温度を上げてやることが必要。針葉樹をはじめに燃やし、温度を上げてから広葉樹にスイッチすることで鋳物のF305Bでも平日の朝暖房機として使っている。
最も我が家の場合、前日夜に薪ストーブを使っていれば翌日は起床時に20℃以上あるし、そうでなくても針葉樹だけ燃やしてすぐ消えてもその熱で一日過ごすことも多いけれど。これがソープストーンなら、さらに本体に蓄熱されるからより快適なんだろう。(ただし高価)
煙突
煙突はセオリー通り。つまり曲げを作らずまっすぐ伸ばし、屋根から抜く。本体から高さ4m以上、屋根面から1m以上。
よく聞かれること①:ペレットストーブ
家づくりを検討中の方に良く聞かれるのが、ペレットストーブを検討しなかったかどうか。その多くは吸排気にモーターを使用しており、停電すると使えなくなるため検討すらしなかった。
停電すると使えなくなることを、地震の時に使うのは危ないから使えなくていいんですなんて言うストーブ屋さんもいるけれど、それは話のすり替えだと思う。少なくとも軽井沢では地震以外でもしょっちゅう停電するし(先日も40時間停電したばかりだ)そういう時に薪ストーブで暖を採り、料理もできるというのは電気が使えないことに不安を感じる家族にとって、大きな心の支えとなる。
よく聞かれること②:乾燥しないか
薪ストーブでなぜ乾燥するのか?(温度が上がれば相対湿度が下がるのは当たり前で、絶対湿度、人間の生活ででた水分がなぜ失われるのか)それは燃焼により冬季の乾燥した外気を大量に家の中に入れるから。3種はもちろん1種換気だとしても、薪ストーブ直付けの外気導入口がなければ差圧レジスターや気密の弱い場所から、薪ストーブが消費する大量のエアが入ってくる。
もちろん全熱交換換気(風呂場までロスナイ!)室内循環式レンジフードのおかげもあるだろうけど、我が家は過乾燥になっていない。
よく聞かれること③:子どもが危なくないか
ベビーゲートをおいている。うちの子どもたちは、熱いことを理解しておりもう大丈夫だと思うけど、偶発的な事故の可能性と友人たちが子どもを連れてよく家に来るので、10年はこのままにしておくつもり。
仕様
JØTUL F 305 R B ブラックペイント
こんにちは。 2018年の12月に建築士のSさんと共にご自宅に伺った夫婦です。 その節はお世話になりました。 あの暖かさは驚きの暖かさで、僕らの目標になりました。 そして、今日、こちらのブログをたまたま見つけて、自分たちが伺わせていただいたお宅だ!とびっくりしました。
昨年、皆様のお家からとても近い場所に土地を購入しました。 建築士さんはもちろんSさんです。 日本に住んでいないので、ゆっくりのペースですが、順調に打ち合わせも進んでおります。 一時帰国や移住した際にはきっとお会いすることがあると思います。 どうぞよろしくお願いいたします。
ブログをすっかり放置しており、気がつくのが遅れ申し訳ございません。
2回めの冬ももう終わりですが、この冬も家族全員風邪をひくこともなく、健康で快適に過ごせました。
家造りの中でも断熱には力を入れたので、そうおっしゃっていただけると嬉しいです。
早速土地を決められたとは!ご近所とのことで楽しみです。
帰国やご移住された際にはぜひよろしくお願い致します。