建築家との邂逅

家を建てようと思ったら、まず何をすればいいのか。

住宅展示場へ

多くの人はまず住宅展示場に行くのだろう。大手メーカーとしても費用対効果が十分あるから展示場に家を建てているわけで、そうでなかったら、あれだけの建物を建て従業員を常駐させておくのは理にあわない。

僕の場合も同じように、近所の住宅展示場に行った。

す、すごい、複数スタッフでの迎撃。子どもの相手をしながら、親を捕まえて離さない。

後で聞いた話だけど、他のメーカーのモデルルームを見せないよう、時間切れを狙って引き延ばすのも営業テクニック。本当かどうかわからないけど、某社はまさにそうだった。

家自体は展示場に行ったのは初めてだったけれど、「家だなあ」という感想。大手メーカーだから、奥さん的には家事動線とか、僕と違う切り口での感想があるかなと思ったら、まったく一緒だった。

子どもたちは遊んでもらえたり、お菓子をもらえたりですっかり味をしめ、展示場前を通ると「行きたい!!」と大合唱するようになってしまった。(駅前にあるので、よく通るんです)

モデルルーム

 

ローコスト系の完成見学会へ

地元のローコスト系で、子育てにやさしいという触れ込みの会社が、完成見学会をするというので参加した。
熱心な説明を受け、展示場は見ましたかと聞かれたので答えると、「あの展示してある家は1億円くらいかかってますからね、カローラが欲しいお客さんにレクサス見せるようなものですよ」

そうなのか、素材のこととかはよくわからないけれど、大手の展示場はたしかに広かった。

「あの展示場の費用や営業マンの人件費もすべて家の価格に乗ってますから、うちは展示場も営業マンも置かないでやってます」*1

確かにこの会社は経費率が低そうだし、価格に見合った価値はあるんだろう。
でも僕らが建てたいのは、レクサスでもカローラでもないのだ。

 

建築家との出会い

住みたい家の具体的なイメージがなかったこともあり、展示場、完成見学会に行ってもどう進めるという方向性が見いだせずにいた。
建築家という選択肢が最初からあったわけではないけれど、本棚の中には趣味の写真集や小説に混じり、何冊か国内・海外の建築家による本や雑誌があった。

ある日のこと。本棚にあった建築雑誌を読み返そうと、子供を連れいつものカフェへ行った。

そのカフェは軽井沢にあって、Uターンしてからできた地元の友人に教えてもらった場所だった。建物の約半分を子ども連れ専用の座敷スペースとしており、およそ4歳、2歳の子を持つ親が、落ち着いてコーヒーを飲める場所は他になく、そういう気分の時はいつも行くお店だった。

その日もコーヒーを飲みながら雑誌をめくる。ふと子どもが気になり顔を見上げれば、高い天井に、植栽越しの柔らかい光が差し込んでいる。

優しいカーブでできたテーブルをいくつか挟んだ向こうの窓際で、長男がおままごとをしていた。
差し込んできた光は、折り紙のように傾斜と線がついた天井と奥の鏡に反射し、一心に遊んでいる子供たちを照らしていた。
2月の軽井沢だというのに、窓際で遊ぶ子供たちを見ていると、その空間にきらきらとつつまれていてあたたかく、今この瞬間をすごく愛おしく感じた。

 

ふと、この建物をつくった人に、家を建ててほしいなと思った。

その場で調べると、すぐに設計した建築家さんは見つかった。
県内に移住してきた、夫婦の設計事務所。

敷地条件、既存建物についてメールし帰宅すると、夜返信があった。真摯で丁寧、だけど技術的に書くべきことは書いた内容のメール。

ちょうど近々軽井沢に来る用事があるということで、その際に敷地を見ていただき、カフェでお会いすることになった。

 

コンペをするかどうか

まだ僕らの家に対する考えがまとまっていないにもかかわらず、建築家さんとの話は非常に盛り上がった。
それはどんな間取り?とか何の設備が欲しい?とか家に求めるモノではなくて、これまでどこでどういう生き方を過ごしてきて、これからどんな暮らしを送りたいかが話の中心だったからだと思う。

一月後のオープンハウスで、設計したお宅を見に行く約束をして帰宅後のこと。
コンペ参加をお願いしようと妻に言うと、話が分かりあえて、実際の建物もいいんだから、決めていいんじゃないかな、と彼女は言った。

僕は元プロジェクトマネージャー、相見積やRFPが当たり前の世界で生きてきたし、個人で何か買うときもまず価格コムを見て決める。
価格以外の要素も考慮しなくてはいけないサービスの場合は表を作り、各要素を比較して点数化し決めてきた。

そんな僕にとっては、そもそもコンペをしないという発想が存在しなかった。

妻は理論的には反論しないし、うまく言語化できないけど、引っかかるものがあるようだった。
こういう時はロジカルに僕が正しいと思っていても、いったん立ち止まって考えたほうがいいのは、7年の結婚生活で明らかになっている。

なぜ、コンペをしたいのか考えてみた。
もっといいプランが出てくるかもという欲があるからだ。

 

便利な時代に生まれて、買う側が売る側を選ぶ立場なのが、当たり前だと刷り込まれていた。

でも妻が感じているのは、いつもの買い物をするみたいに、いろんな事務所を比較したらいいものが手に入るのだろうか。
比較のため物のように扱って並べることで、自分にできない仕事を尊敬しながらお願いする気持ちが損なわれるのではないか。
そんな感情なのだろうと思う。

逆にコンペをしないことによるデメリットってあるのだろうか。
 - 一任したら手を抜かれるんじゃないか?
家は芸術、建築家にとっては大切な作品でもあるし、話をして建築が好きで真摯に仕事しているのは分かっている。

 - あれこれ見て選ぶのに比べて可能性が狭まる?
月に家を建てるのでなければ、重力や物理法則、法規制、そしてコストの制約の中で建築を追求しなくてはならない。
限られた時間とコミュニケーションの中で、一発のプランを何社かが作るのと、じっくりと時間をかけ話をして考えるのとで、後者のほうが本当に可能性が狭まるのだろうか。*2

ひとつ分かることは、コンペをして決めたら、そのプランから大幅に変わる設計にならないだろう。
できたものを選ぶのではなく、一緒に考えて作る。僕らの考えは決まった。

 

設計事務所決定

1月後のオープンハウスで再会した際に、その場で設計をお願いしたい旨を伝えた。
コンペ予定と言っていたし、見積やプランはまだ何もなかったので予想外だったようで、ちょっと驚いた顔だった。
そのままどうしてお願いしたいと思ったのか、建物を見て感じたこと、家は買い物のように扱いたくないし、駆け引きなく決めたい旨をお伝えした。

結局他の建築家さんと会うことも話をすることもなかったので、もしあの時カフェで思いつかなかったら、どうしていただろうか。
たぶん「長野 設計士」とか「軽井沢 建築家」などで調べていたのかな。それでもたくさん出てきてどうしていいかわからないから、雑誌から何社か相談してコンペをいたのではないかと思う。

それは決して否定しないし、また違った出会いがあったのかもしれない*3 けれど、僕らは今回の家づくりにとても満足しているし、そこで過ごしてみて「いいなと思う建物」を作った人にお願いできてよかった。

 

*1 その後モデルハウスを建て、若い人を営業にしたみたいで驚いた。
*2 実際初期段階で4つスタディがあったが、とことん考えていただいた第一案ではその4つとも似つかない全く違う形状になった。
*3 雑誌掲載は広告宣伝費用が必要だから、ある程度従業員を使ってビジネスしている会社が多くなるし、設計事例も写真の撮り方で受ける印象がかなり変わる。
 

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