庁舎改築周辺整備事業の今後の方向性についてのパブリックコメント

軽井沢町では新庁舎整備事業をどのように進めていくかパブコメを募集していました。(2024/1/15 23:59まで)
募集期限を過ぎましたので、僕が投稿したコメントを公開します。
1/18の委員会を傍聴される方は参考になさってください。

1. これまでの設計事業者と共に見直していくことについて


町がコンペティションで選んだ設計事業者と共に新庁舎の論点となっているコスト、環境性能を詳細設計で検討するべきです。今回の新庁舎に対し住民からの期待と目指すべき姿を誰よりも深く考え追及し実現しようとしてきたのはコンペを勝った設計者ですし、見直しのきっかけとなった110億円という金額も新庁舎の建設分はその半分もありません。立地などの前提条件が大きく変わらないにも関わらず、民意の名の下に一度示された結果を白紙にし、再コンペすればいいという議論は、プロフェッショナルな職能を信頼せず、ここまでの検討をした建築家の存在を軽んじているようで残念です。契約した設計事業者を尊重し共に進めるべきだと考えます。

2. 太陽光発電について


太陽光発電について、設計事業者からの説明資料3「ZEBについて」では、Nearly ZEBとしたい方針が示されました。前回の見直し方針案に対するパブコメでZEB支持、太陽光支持の意見が多数だったにも関わらず、太陽光なしのZEB Ready を含めてしまった軽井沢町の「軽井沢町庁舎改築周辺整備事業見直し方針(令和5年9月)」と比較すると、太陽光パネルを搭載すると明言されたことは前進しており素晴らしいと思います。
しかしながら基本設計図書を確認すると建物の屋根には搭載せず、公用車駐車場の全てに屋根をかけパネルを設置するとあります。公用車駐車場は必要台数に絞って屋根を設置し、庁舎の屋根にもパネルを設置した方がコスト削減できます。公用車の稼働率が高ければすべての車両分屋根が必要なのかもしれませんが、その場合でも建物の一部にもパネルを設置すればより発電量を増やすことができます。コストが問題で満足に載せられないならPPAによって設置することで初期費用の予算措置は不要で大幅な減額となります。近年公共施設での事例は増えており、環境省でも脱炭素社会の実現に向け手引きを公開し推奨しています。
https://www.env.go.jp/content/000118584.pdf

説明資料3内「寒冷地・軽井沢の特性」には、「冬場は豪雪ではないが、積雪でソーラー効果は減る」とあります。気象庁のデータによれば昨年の軽井沢の日照時間は2386.7時間と全国915地点の中でも上位であり、定量的に見れば太陽光パネルの搭載を減らす理由にはなりません。私宛には2023年2月時点で「南斜面の大きな屋根にソーラーパネルを乗せる設計では、国道18号を挟んだ建物に反射が大きくならないか?」心配する意見が寄せられましたが、現配置ではまず問題ありませんし、PPA導入検討と同時に意匠とのバランスで搭載量を増やしていただきたいです。

3. 断熱性能について


激しい減額圧力のためか基本設計で開口部が減額のため木のサッシからアルミサッシ採用になっています。事務所用建物は住宅等と異なり24時間稼働はしていないため、コストと性能のバランスから最高性能のものを採用しないことは理解できますし、中間領域においてコストをコントロールされているのだと思いますが、執務するエリアは海外で禁止されているような低性能の窓にするべきではありません。1日10時間程度使うのだから、バックオフィスに関してはII地域の新築として最低限Uw=1.9W/㎡・K以下程度のものを採用するべきです。説明資料3内「省エネルギー化の取り組み」にはガラス面の熱貫流率強化、サッシの気密性とありますが、この時代の新築でアルミサッシを全面採用ということになれば取り組み以前の問題です。近隣の御代田町では2018年に新庁舎を建設しましたが、2022年には樹脂製の内窓を設置する工事を発注しています。(令和4年度 町単独 御代田町役場北側サッシ改修工事)隣の自治体でそのような事例があるにも関わらず、新築時に最低限以下の窓を設置することになれば、今回町民の議論を尽くすまで一時凍結した意味がないと思います。
また基本設計には屋根断熱に関し熱伝導率 (λ:W/(m・K)) 0.028 ~ 0.023) のグレード) で 80 ㎜以上の性能を確保とありますが、外気と接する執務室エリアのRC壁は屋根と同程度断熱されているのでしょうか。サッシ同様減額のためBEIで0.5以下になればあとはなんでもいいというのではなく、II地域の軽井沢で長年使う建物レベルの断熱をしてもらいたいです。
基本設計資料編P20 4環境計画に「単に断熱性能の高い材料の組み合わせだけではコスト増となり、予算的な問題に直面してしまう。また、材料技術に頼った、建築的工夫のない建物になってしまう。」とあります。建築物のエネルギー消費性能計算プログラムで適切に反映されなかったとしても、アルミサッシの採用や外気に接する部分の断熱が弱い、熱橋が多く存在すると、計算によって求められる温度差と熱抵抗どおりの損失と同時に、MRT(平均放射温度)が不利となり空調運転時間、温度から消費電力が大幅に増えることは設備設計方なら理解されていると思います。これは議決を必要とする新庁舎の予算措置から、そうではないランニングコストに付け替えているだけです。「予算的な問題」を回避できればそれでいいのでしょうか。

環境計画に外皮の高断熱化とあるのだから、少なくとも執務エリアの外気に接する部分は言葉通り高断熱の仕様にしてほしいです。高断熱という言葉に定義はなくどんな低断熱でも使えてしまいますが、高断熱プロジェクトをいくつか企画した私としては、II地域の壁なら部位別熱貫流率で0.200 W/(㎡・K)以下程度の性能はないと「高断熱」と自ら名乗るのが恥ずかしい感覚があります。3地域の自社のオフィスは24時間使う住宅ではないためその程度の壁断熱にしましたが、もっと断熱すればよかったと感じることはあってもその逆はありません。窓も大工造作でコストを削減したトリプルガラス、一番悪いところでUw=1.3W/㎡・Kですが冬期は冷輻射と、冷やされた周辺空気による温度差の対流は発生しています。断熱材という物理を「材料技術に頼った」と否定するのは、少ないエネルギーで健康快適に過ごすために人類が進化してきた歴史の否定です。ZEB導入検討のプログラムの問題で設備に依ってしまうもどかしさはあるかもしれませんが、執務室の外気と接する面に関してはこれまで世界中の建築関係者が積み重ねてきたベストプラクティスを超える「建築的工夫」がなければ「材料技術」に頼るのが当然かと思います。

以上論点のみの手短なパブリックコメントとなりましたが、計画を読み数多くのすばらしい点や凝らされた工夫に、設計事業者が投入した知見と膨大な時間に思いを馳せました。町民としてこれまでの仕事に感謝すると同時に、①のとおり契約した設計事業者と共に進めることを強く支持します。また町長のそのような決断が示されれば、設計事業者はプロフェッショナルとして、②③の点についてはゼロカーボン宣言の2050年を通過点とした、100年後の風景に通用する解を示してくれるでしょう。

空き家断熱賃貸「作り手たちのアトリエ」リリースのお知らせ

久しぶりにお知らせです。
売土地としてでていた近所の空き家を見つけたのが2022年2月のこと。国有林に近く、でも小学校徒歩7分でレストランやパン屋にも散歩できるいい立地です。

ずっとやりたかったリノベーションでばっちり断熱改修、耐震補強し、賃貸住宅「作り手たちのアトリエ」として再生し8月から提供しています。

新築を考えてこのブログにたどり着いた方に、リノベの可能性も知ってもらいたい。よければ覗いてみて下さい。
※当面空室の予定はありません。

美しくエコな生活を賃貸でも。 六花荘着工のお知らせ

このブログを読んでいただいている皆さんお久しぶりです。
前回のエントリーで最終回の予定でしたが、お知らせしたいことがあり更新します。

御影用水エコハウス完成から3年、この家を設計いただいた暮らしと建築社さまと共同で賃貸住宅を作ることになりました。

日本の住まいに対して感じてきた疑問を、私たちなりに解明し皆さんに見てもらいたいと思い、簡単ではありますがサイトも作りました。

サステナブル集合住宅 六花荘

着工の挨拶をFacebookより転載します。

 
サステナブル集合住宅「六花荘」着工のお知らせ

地方の賃貸で起きている「環境負荷が高い」「非健康的である」「安全性が低い」という課題を解決する集合住宅を、軽井沢町発地に建設します。

一昨日、無事に地鎮祭を迎えることができました。神主さんに促され、真夏より幾分柔らかくなった日差しを背中に感じながらそこに立つと、森から抜けてくる風の匂いに、3年前自宅を建てるため初めて地鎮祭した時のことを思い出しました。

よく家は3軒建てて初めて満足するものができると聞きます。僕はとても3軒建てるなんて考えられないので、1軒目から全力で家づくりしました。人柄と才能が素晴らしい建築家さんとのご縁をいただき、また元来のオタク気質もあり美しくエネルギーを使わない、いい家ができました。毎年11月の国際パッシブハウス・オープンデイには「御影用水エコハウス」として公開、見た人や聞いた人に断熱の輪が広がっています。

さて住み始めて感じたのは、自分と家族だけエコで健康的な生活を送っていていいのかという疑問です。引っ越したのは2018年11月下旬でしたが、実家や、これまで賃貸で暮らしていた家と全く違い、冬に脱衣所や廊下で寒い思いをすることなく、無暖房でも朝起きると20度近くあります。札幌より寒い軽井沢で、メインエリアの暖房薪ストーブのみ、外気マイナス10度の朝でもです。最新テクノロジーを投入したわけではなく、数十年前から確立している技術で高断熱高気密の家を作っただけなのですが、暖かく結露しない健康的で快適な、しかも冬の光熱費が半分以下に下がる建物ができました。もちろんこの2年間脱衣所やトイレ、廊下で寒い思いをすることはありません。別に特殊なことはしておらず、ただ断熱をきちんとしただけなのに「もしかして一部のプロを除き、住宅業界の人を含めてほとんどこうした家づくりを知らないのではないか」という考えが頭をもたげてきました。

家づくり初期にふらっと入った展示場で大手ハウスメーカーの営業は自社全館空調の光熱費を説明できませんでしたし(その自慢のシステムは低圧電力4kW契約だったけれど、電灯と動力の違いも知らなかった)、いくつかの工務店に「省エネ最上等級の4だからあったかい」とか、「樹脂トリプルはオーバースペック」、「気密が高すぎるとカビの事故が怖い」などと定量的な根拠なく何度も否定された経験もそれを裏付けました。欧米や北海道で数十年前から普及している理論について質問しても、きちんと答えられる人は一部のみで、適切な知識がありません。いわゆる業界の人々でも断熱された建物を施工したり、住んでいる人が少ないのだなど実感しました。

振り返ってみると、東信地域にパッシブハウス・ジャパンの賛助会員がまだおらず、自ら加入して住宅のエネルギーシミュレーションソフトと計算手法を習得していました。その家づくりが終わった今、タイミングよく(笑)自社の賃貸借期限が切れようとしている。10年前にリフォームはしたけれど、冬の朝出社すると室内がキンキンに冷えていて、始業1時間まえからガスストーブを炊かないと過ごせない室内。日中もアルミドアからの冷気でじっとしていると体調を崩すので、なるべくこまめに外出するようにしていました。断熱がなく土の上に木をはっただけの床に並べたデスクの足元には、1000Wの電熱線ヒーターがあり、室内はエアコンと都市ガスのFFをつけても寒い場所があるので灯油ファンヒーターを何台も置いていました。

家づくりで実感した断熱と日射取得のパワーを、いま再び使う時が来た。

そうして2つ目は自分と家族だけでなく社員が健康で生産性高く過ごし、災害にも強い会社とするため、社内で作った図面を捨て自宅と同じ建築家さんにお願いし、家の改善点も踏まえアップデートした高断熱高気密仕様で建設しました。一般的なやり方で、美しく災害に強く性能の高い施設を作るととてもお金がかかります。でも家を作ったことがあったので、エコハウスの考え方で断熱して躯体性能を上げることで、冷暖房のため細かく区切る必要のない空間を実現、スペース効率を高め床面積を減らして建築コストを下げます。さらに設備容量が小さくなるので冷暖房設備の初期費用とランニングを大きく減らしました。元がエコハウスなので大きくても地域の大工さんで建てられる点もプラスに働きました。

おかげさまでいい建物ができ、冷暖房換気だけでなく家電、サーバ等OA機器まで含めてゼロを超えプラスエネルギー、太陽光買取価格は13円/kWhですが光熱費も(まだ一年経っていませんが冬の厳しい条件をみて)ゼロどころか収入が多い建物ができています。もちろん以前のように倉庫やトイレに行っても寒い思いをすることは無く、夏狭い給湯室で熱い思いをすることもありません。県外含め各地から、行政機関や設計事務所、施工会社の視察が相次いでいます。オフィスでは新しいテクノロジーにも挑戦はしていますが、根本的な性能を支えているのは30年前から先人たちが取り組んで来た「高気密高断熱」であり、もうそれは確立した技術であり、誰もが真似しようと思えばできるオープンな工法です。

その新本社で、断熱効果による温度差のない環境で快適に仕事を始めて1カ月たたない12月の夜のことです。事務所の町内で火災が発生し、一軒家が全焼。4人の子どもたちが亡くなってしまいました。消防によると火元はストーブの近くに干してあった洗濯物ではないかとのことです。

東信地域は寒いと言っても北米やヨーロッパの寒冷地のような気温ではありませんし、断熱すれば就寝時無暖房でも起床時18度確保できます。しかも年間日照時間が長く日射取得や太陽光発電、太陽熱利用に向いています。このような恵まれた地元で悲しい事故が起き、地域の大人として責任を感じました。

石油ストーブのような開放型暖房を室内で使用しているのは先進国では日本だけだと聞きます。確かに海外ではみたことがありません。

このニュースを見た瞬間に3番目を建てること、それは賃貸住宅であること、これまで2建物のノウハウを投入して高断熱と採算性を両立し、安全で健康的でエネルギーを使わない暮らしを実現することというコンセプトを決めました。
どこに建てようか計画をはじめたタイミングで、自宅とオフィスをお願いした建築家さんから、逆に軽井沢町での賃貸共同企画、経営のお声がけをいただき、1月から事業検討を始め3月に土地を契約。やってみて正直なところ土地から取得なので赤字にはならない程度になればいいという感じですが、これから世の大家さんも脱炭素時代における資産価値という視点からこうした建物を作りたい方が増えるでしょうし、いい見本になりたいと思います。

六花とは雪の結晶です。軽井沢の冬は寒く厳しいけれど、この6戸では厳しいだけでなく冬の自然にある美しい側面を感じながら暮らせます。新たな建物が、脱炭素を進めその美しい自然環境を守り、これからの住まいのあり方を示す存在になることを願い名づけました。

家づくりを始めた最初はそんな気なんて全くなかったのに、施主として3度目の地鎮祭を迎えることになりました。僕がこの日を迎えることができたのは、探究が強い自己意思で結実したわけではないでしょう。縁がつながり、たまたま発露したというのが正直なところだと思います。まあでも面倒な生き方かもしれませんが傍観者にならず、自ら参加するのが僕にはあっています。結果省エネ、快適、安全な建物を賃貸として提供できることになりそうで、ワクワクしています。

大家になる機会をくださり、設計して下さった暮らしと建築社さまに感謝し着工のお知らせを結びます。

国際パッシブハウス・オープンデー2019のお知らせ

11/8-10に国際パッシブハウス・オープンデー2019が開催されます。
世界中のパッシブハウス・レベルの建物が、 一同に見学会を行う国際イベントです。

特設サイトリンク

御影用水エコハウスも11/9(土)amで公開予定です。見学は上のリンクからお申込いただけます。
昨年の公開前に考えたこと、感じたことを、SNSより転載します。

 

家造りももうすぐ完成です。

引っ越しはまだ先ですが、11/9-11の3日間、国際パッシブハウスオープンデーに合わせて公開するので、今日は準備してきました。

シュガースポットコーヒー さんで居心地が良いな、こんな家建てたいなとふと思い立ち、設計した建築家さんにその場で連絡をとってから、約2年。

もともと「高気密高断熱」は家を建てるにあたり、日本の住宅寿命の短さに衝撃を受けたことから、長く愛され残る建物を実現するための要素の一つでした。

住宅業界は売らんがための独自工法、薬事法の家バージョンがあったら送検間違い無しの広告宣伝が多いですが(多分営業も理解しないでやってると思う)、一応電力会社にいたので、筋の良い技術理論にはたどりつくことができました。

住宅は素人ながらパッシブハウス・ジャパンの仲間に入れていただき、勉強して様々な高性能住宅を見たりするうちに元来のオタク気質が刺激されたのか、またはデータセンターという省エネ技術の塊に、20代後半の人生を捧げた記憶が蘇ったのか、すっかり断熱の世界にハマっています。

話の流れで家を軽井沢に建てていて、建築家の設計した平屋だとわかると、色々な反応があります。

婉曲的に、お金がかかったでしょとか、高級なのが好きなんだね的なことを言われることが多いけれど、僕の場合それは明確に違います。

ラグジュアリーよりシンプル、豪華より素朴。

いわゆるホテルライクな、華美で、でもエネルギーをたくさん使わないと快適でない建物や、山小屋風で質素な、そして温熱環境的にもプアな寒い建物が多い軽井沢において、別のベクトルを持つ家になったと思います。

3.11の時に、もう二度とこんな思いはしたくないってみんなが感じたはずです。
でも事実上原子力が減りつつある中、エネルギーをこれまでと同じように無駄遣いしていくのでしょうか?

今回は原油天然ガスを輸入し流出するお金を、きちんとした性能のある建物を建てて、林業や大工さんはじめとする職人の仕事に振り向けてみました。

ひとりひとりが省エネで持続可能な暮らしをすることが、解決策になると思っています。

僕は評論家にはなりません。僕から見えたいまの社会に対して、少数派かもしれないれど、自分は与しないことをローン組んでまで意見表明した結果がこの家です。

35年頑張りますw