第一案、あるいは基本設計の完了

さて、設計をお願いしてから3ヶ月後。第1案提案の日がやってきた。

それまでにSさんの設計した家にお邪魔させていただき説明を受けたり、ヒヤリングシートを夫婦で話し合って書いて返信したり。

前回の新しい家のコンセプトもそうだけど、僕らが何が好きで何が嫌なのか、そこでどんな暮らしをしたいかをSさんに伝えてきた。
ここで格好つけるとこの先のローン生活が苦痛になる。

うちは、丁寧な暮らし的なものへのあこがれはあるけれど、ズボラだから日々の暮らしの手間は省きたい。
建築家物件建てて大丈夫かな…そんなことを考えながら妻の書いたヒヤリングシートを見たら、家事は「嫌い」に丸してあった。正直でいいですね。

これまで、Sさんの想像力を邪魔したくなかったので、具体的な間取りの話はせず、もちろんいいなと思う家の写真なども共有していない。

Sさんのこれまでに設計した家で、あるいは写真で具体的にいいなと思う点を伝えることはあったけど。

そんな僕らに提示された一枚の図面は、本当に衝撃的なものだった。
これまでに見たことのない間取りで、でもどのような環境で生活するか具体的に考えられており、しかも美しい。

その居住空間にはまるで折り紙のような屋根が乗り、これまでに見たどの家とも違う形をしていた。

今回家造りをして感じたのは、優れた建築家の作品は2次元的に間取りだけ見ても、理解も判断もできないということ。
一般的には何坪の家で、リビングが何畳でという風に考えていくし、僕も色々な間取りを見るのは好きだったけれど、実はそんなことをしても本質的に意味は無いのかもしれない。
僕らが住むのは平面ではなくて立体の世界なのだから。

だから出来上がるまで図面は載せないでおきます。
ひと目でこの家を建てたいと感じて、第一案からほとんど修正なく基本設計が終わりここまでで一年以上前。

もう現地は木工事をしているので次回から施工の様子、記録が書けると思います。

美しく、高性能で、暮らしに寄り添う家

なぜ、日本の家が30年程度で解体されてしまうのか考えるなかで、今回の家に求めるものが見えてきた。
長く愛せる家。家のロングライフデザインを実現するために、具体的にどうしたらよいのかは、なぜ短期間で壊されるのかの裏返し。

「美しく、高性能で、暮らしに寄り添う」家づくりを進めていきたい。
※この時点で自分たちの予算は一切考慮していません。。。

 

1.美しくあること

美しいとは何か。人によって感性は異なるし答えのない問題だけど、何とか自分の考えを整理して、今回は以下3点を目指すことにした。

1-1 美しい建築
建物単体でもそうだが、周辺環境、景観を乱さない軽井沢らしい美しさを追求したい。建物が個人の表現になってしまうのは避け、そこにあることで魅力的な街並みが引き寄せられるような、社会を背景とし環境と調和した建築を求めて生きたい。
美しさを求めて住宅雑誌や本を読んでいると高級感のある家が頭に浮かんでしまうけど、服でいうと全身ハイブランドな感じが今好きかというとちょっと違う。ロングライフデザインなのだから、普段使いできる、何十年変わらない定番のなかにある美しさがいい。

1-2 経年を味方に
革製品のように経年変化を楽しめ、時間がたち使うことで美しくなる家なら、新築時がピークの美しさではなく、歳を重ねて魅力的になる。
そのためには素材が鍵となるだろうか。また、植栽なども工夫しだいによって、時がたつほど魅力的な家に役立つことができそうだ。

1-3 美しい暮らし
いくら意匠性を追求しても、実際に家族が暮らしている状態で美しくないと意味がない。よく建築家の設計した施設などで、開業当初は美しいのだが、そのうち案内の説明書きが変なフォントで加えられたり、おかしなポスターがべたべた張られているのを見ると残念な気持ちになる。
暮らしが美しくあらねばならない。余計なものを付け足さなくても暮らしやすく、意識せずとも片付きスッキリする家ということになるだろうか。備え付け収納と、動線、それから不要なものを持たない暮らしがまず頭に浮かぶ。

 

「美しい建築」「経年を味方に」「美しい暮らし」といっても、正直特にアイデアがあるわけではなかった。
言うのは簡単だけど、それを具体的に考え形に落とし込むのはすごく大変なことだと予想できたので、その部分はSさんに全部おまかせすることにした。

3項目の実現についてはSさんの作った家の数々が素敵だと感じお願いしたのだから、Sさんの才能と経験を全面的に信頼し、施主として設計に悪影響を与えないよう気を付けて進めることにした。

 

2.高性能であること

性能については以下3点を目指すことにした。

2-1 地震への強さ
国の基準だと建築基準法を満たすのが「耐震等級1」、地耐力の1.25倍が「耐震等級2」、一番強いのが1.5倍の「耐震等級3」になる。

熊本の地震で耐震等級2の家が倒壊した例もあり、様々な本を読んだ。僕にとってわかりやすかったのは「なぜ新耐震住宅は倒れたか」(日経ホームビルダー)と「建築知識2017年5月号」(エクスナレッジ)だった。

Sさんは普段の設計でも、構造計算事務所にも依頼しているということで、まずは構造計算により耐震等級3を満たすようお願いすることにした。その上で、施工がしっかりしていないと設計上の耐震等級が高くても意味が無いので、基礎や構造の施工については、施工の専門家に話を聞きに行くことにしよう。

 

また万が一地震が発生した際に建物が安全なら、そこで家族が発生後72時間は避難生活を送れるようにしたい。ライフラインが遮断された時のために、パントリーまたは物置で食料を備え、エコキュートによって生活用水を備蓄し、薪ストーブの採用により暖房と炊事をしたい。

加えて通信、情報収集手段の確保として、テスラ製リチウムイオンバッテリーを装備したい。ここで太陽光発電を希望しなかったのは、悪天候時や夜間に発電できないので、災害対策としてはバッテリーより順位が低いと考えたためである。

 

2-2 気密断熱性能
断熱についてはH25次世代省エネ基準というものがある。今は義務ではないが、間もなく2020年には義務化される。
当然このレベルは最低ラインとして満たすのだが、もともと家について考える前から、とある記事を見て興味を持っていた。
家を買う予定もないのに、好きで毎年買っていたCasa Brutusの家特集2012年2月号。

社会に大きな衝撃を与えた3.11の大震災と原発事故。住宅の気密断熱性能を高くすることで、エネルギーを使わない社会に変えていこうと、パッシブハウス・ジャパン(PHJ)という団体を設立した森みわさんの特集が掲載されていた。

当時僕はデータセンターファシリティマネージャーとして、金融機関のサーバー室を計画し構築し運用する立場にあった。
コンピューターは計算時に電力を消費し、その電力分は熱となる。仕事では世界最先端のレベルでその熱をいかに少ないエネルギーで冷却するか考え、つくり、各種センサで計測して改善を繰り返していた。そうした背景が有り、コンピューターと人間という違いはあるけれど、理論的に森さんとPHJの主張が正しいことはすぐに理解できた。

家を作る際にCasa Brutusの記事を思い出し、引っ張り出して読んでみた。やはり面白い。
自然とパッシブハウス・ジャパンを検索すると、そこに軽井沢でパッシブハウスに暮らしているお施主さんのインタビューがあり、それがまたすごい。一気に感化された僕はパッシブクラスレベルの冷暖房基準を目標に決めた。
(その後読んで参考になった本、見学した家は多いので別エントリにします。)

気密、断熱について調べるうちに、エネルギーを使わない社会づくりという点で追加したい要素がでてきた。

世間での省エネ住宅における省エネルギーはその多くが冷暖房のみに言及しているようだ。だが、今後気密断熱の強化により、冷暖房換気にほとんどエネルギーを使わない家が増えてきた場合、さらに資源を節約するためにはどうすればよいか。
僕の前職で本当に環境に配慮した建築物を計画する場合、水資源の節約はマストだった。シャワーや各水栓の工夫もそうだし、トイレを流す水など上水である必要はなく、雨水を利用すればよいので雨水貯蔵タンクが欲しい。

また給湯は災害時の備蓄要件からエコキュートをえらんだけれど、100%電気ではなくて薪ボイラーまたは太陽熱給湯を併用したい。

 

2-3 進化する家
他に性能面から何ができるか考えていたところ、ある日ふと思いついた。
あらゆる性能を時の経過に耐えうるものにするには、もともと将来を予測して高性能にするのはもちろんだが、アップデート可能な仕組みにして時間とともに性能を上げていけばいい。

例えば設備更新しやすい作りにするのもそうだけど、最新の技術を取り入れていけばもっと面白いことができるのではないか。
物理的に交換しなくても、すでに、ファームウェアのアップデートで性能が上がるなど、ソフトがハードを定義する時代になりつつある。

わかり易い例はテスラモータースだろう。購入時になかった機能が、ハードウェアを触ること無く、ソフトの配信により追加されていく。

といっても具体的なアイデアはないが、使用状況を解析してハードウェアを変えることなく、エアコンの電力使用量が下がったりすれば、性能が上がっていることになるだろうし、この部分は検討事項としてゆっくり考えよう。

 

3.暮らしに寄り添うこと

さて、3番目、暮らしに合わない問題の解決はどうすればよいか。

3-1 暮らし中心の設計
僕らがその場所、その家でどういう生活・人生を送りたいかを中心に設計するということ。
10家族あれば10の暮らし方があるはず、土地の形状や周辺環境を踏まえながら、その家族がどういう生活を送るか将来まで想像して設計できるのが、注文住宅のよさだ。

がちがちに作りこむのではなく、流行を追うのでもなく、普遍的でありながらその家族の住まい方を考える。

これは僕のアイデアではなくて、今回お願いした建築家Sさんが大切にしているもので、完全に受け売りだけどとてもしっくりとくる、素敵な方針だと思う。
興味のある方はその後読んだ↓の本が、考え方が近いと思うので一読をお勧めします。

 

3-2 外的環境変化への対応
長く愛される家であるならば、数十年のうちに変わるだろう外的環境変化に対応できる必要がある。例えば我が家の場合は敷地に接する南側に雑木林があり、いわゆるパッシブ的な手法で南側を大きく開け日射取得することで暖房負荷の低減が見込まれるが、その雑木林は他人の土地なのでこれから建物ができる可能性を考慮しなければならない。

 

3-3 内的環境変化への対応
外的要因の変化を挙げたなら、当然内的環境変化にも備える必要があるだろう。
よく言われるのが子供の成長に合わせて間取りを変えたり、年を取ったら手すりが欲しくなるから、後付けできるようあらかじめ壁内に補強しておくといった要素があるだろう。

 

いや~コンセプトって楽しいですね、現実(見積)考えない段階なので好きなこと言っていればいいから。今読み返すと恐ろしいこと言っています。。。
でも、現実と折り合いつける前に、何をしたいのか考えておいてよかったと思います。

安藤さんが『住宅』の中で書いていました。
「だいたい、建築家もクライアントも予算の倍くらいの夢を小さな住宅に託すものですから(笑)」

そのとおりで、今になるとよく分かるのですが(笑)、減額などで悩んだときに、はじめにコンセプトがあったことで、立ち戻って考えることができてよかったです。

なぜ日本の住宅は寿命が短いのか、僕の考え

住宅寿命の短さに対する仮説

建築家Sさんに相談した時点では、土地に残されていた古家を改修するのか、解体して新築にするのか決めていなかった。

Sさん含め詳しい人に現場を見てもらうと、みな迷うことなく一様に解体して新築する以外の選択肢はないという。もともとの建物は新建材でできた別荘で、夏簡単に過ごせればいいように作られており、リノベーションしても新築の80%から変わらない費用がかかる上、わざわざ残す建物ではないと。

たしかに、見た目が素敵なら頑張れるけど、解体するしかなさそうだ。

 

 

話を聞き調べるうちに、日本の住宅寿命が諸外国に比べて、著しく短いことを知った。
日本人は「家」という本来資産となり次世代に受け継がれるべきストックが、住宅寿命が短いせいで一代限りのフローの消費となっており、可処分所得を圧迫するため欧米のような豊かなライフスタイルがおくれないという指摘もある。

家を作ってから壊すまでの期間が、欧米の二分の一から三分の一という数値*1 に、大きな衝撃を受けた僕は、なぜそうなってしまうのか僕なりに考えることにした。

 

1. 性能が低い

まず思い当たるのが性能面の不足である。中でも耐震性。1981年に建築基準法が大幅に見直され、新耐震設計法の導入がなされた。その後の阪神大震災を経て2000年にも耐震性に大きく影響を与える改正がなされている。
昔の基準で建てられた家を、耐震補強するのは当然費用が掛かる。家族の安全を守れない家が、壊されるのはやむを得ないだろう。

 

性能面では、個人的な経験から気密断熱性能の不足も一因だと考えた。生まれ育った家は、決して安売りなどではない注文住宅だが、冬の夜になると暖房のない廊下など共用部は、犬小屋のような温度となる。

これまで家の省エネルギー性能に対しては最低基準がなく、欧米から大きく遅れていた。
3.11以降住宅の一次消費エネルギーが問題だと指摘され、ようやく2020年から義務化されることになったが、温度差のある日本の住宅によって交通事故よりも多くの人が亡くなっているともいわれている。

住まい手のの健康を守れない家も、壊されていくのはやむを得ないだろう。

 

2. 暮らしに合わない

長く住めない理由として、構造の安全性、気密断熱の問題といった性能不足の次に、暮らしに合わなくなるという問題があるのではと考えた。
それは間取りの可変性、長期優良住宅でいう設備更新やバリアフリーもそうだし、そもそも新築時に自分の暮らし方、過ごし方、好みを突き詰めることなく家を買うことに一因がありそうだ。

 

3. 美しくない

そして、最も大きな要因は今回解体を決断したように「美しさ」だと考えた。
周辺環境と調和して美しい建物なら、残す価値が感じられ定期的に手を入れて次世代に受け継がれていく。

住宅寿命が短い理由を全体的な傾向で分析すれば、性能やライフスタイルの変化という要因はあるだろうけど、ひとうひとつの家がもっと美しければ、解体されずに残るだろう。

 

考える中で、時を経ても愛せる家にしたいという思いが強くなっていった。
どうすればいいのか。

つまり、仮説と逆のことをすればいい。

投稿日: カテゴリー 家を建てるまで, 設計なぜ日本の住宅は寿命が短いのか、僕の考えにコメント

建築家との邂逅

家を建てようと思ったら、まず何をすればいいのか。

住宅展示場へ

多くの人はまず住宅展示場に行くのだろう。大手メーカーとしても費用対効果が十分あるから展示場に家を建てているわけで、そうでなかったら、あれだけの建物を建て従業員を常駐させておくのは理にあわない。

僕の場合も同じように、近所の住宅展示場に行った。

す、すごい、複数スタッフでの迎撃。子どもの相手をしながら、親を捕まえて離さない。

後で聞いた話だけど、他のメーカーのモデルルームを見せないよう、時間切れを狙って引き延ばすのも営業テクニック。本当かどうかわからないけど、某社はまさにそうだった。

家自体は展示場に行ったのは初めてだったけれど、「家だなあ」という感想。大手メーカーだから、奥さん的には家事動線とか、僕と違う切り口での感想があるかなと思ったら、まったく一緒だった。

子どもたちは遊んでもらえたり、お菓子をもらえたりですっかり味をしめ、展示場前を通ると「行きたい!!」と大合唱するようになってしまった。(駅前にあるので、よく通るんです)

モデルルーム

 

ローコスト系の完成見学会へ

地元のローコスト系で、子育てにやさしいという触れ込みの会社が、完成見学会をするというので参加した。
熱心な説明を受け、展示場は見ましたかと聞かれたので答えると、「あの展示してある家は1億円くらいかかってますからね、カローラが欲しいお客さんにレクサス見せるようなものですよ」

そうなのか、素材のこととかはよくわからないけれど、大手の展示場はたしかに広かった。

「あの展示場の費用や営業マンの人件費もすべて家の価格に乗ってますから、うちは展示場も営業マンも置かないでやってます」*1

確かにこの会社は経費率が低そうだし、価格に見合った価値はあるんだろう。
でも僕らが建てたいのは、レクサスでもカローラでもないのだ。

 

建築家との出会い

住みたい家の具体的なイメージがなかったこともあり、展示場、完成見学会に行ってもどう進めるという方向性が見いだせずにいた。
建築家という選択肢が最初からあったわけではないけれど、本棚の中には趣味の写真集や小説に混じり、何冊か国内・海外の建築家による本や雑誌があった。

ある日のこと。本棚にあった建築雑誌を読み返そうと、子供を連れいつものカフェへ行った。

そのカフェは軽井沢にあって、Uターンしてからできた地元の友人に教えてもらった場所だった。建物の約半分を子ども連れ専用の座敷スペースとしており、およそ4歳、2歳の子を持つ親が、落ち着いてコーヒーを飲める場所は他になく、そういう気分の時はいつも行くお店だった。

その日もコーヒーを飲みながら雑誌をめくる。ふと子どもが気になり顔を見上げれば、高い天井に、植栽越しの柔らかい光が差し込んでいる。

優しいカーブでできたテーブルをいくつか挟んだ向こうの窓際で、長男がおままごとをしていた。
差し込んできた光は、折り紙のように傾斜と線がついた天井と奥の鏡に反射し、一心に遊んでいる子供たちを照らしていた。
2月の軽井沢だというのに、窓際で遊ぶ子供たちを見ていると、その空間にきらきらとつつまれていてあたたかく、今この瞬間をすごく愛おしく感じた。

 

ふと、この建物をつくった人に、家を建ててほしいなと思った。

その場で調べると、すぐに設計した建築家さんは見つかった。
県内に移住してきた、夫婦の設計事務所。

敷地条件、既存建物についてメールし帰宅すると、夜返信があった。真摯で丁寧、だけど技術的に書くべきことは書いた内容のメール。

ちょうど近々軽井沢に来る用事があるということで、その際に敷地を見ていただき、カフェでお会いすることになった。

 

コンペをするかどうか

まだ僕らの家に対する考えがまとまっていないにもかかわらず、建築家さんとの話は非常に盛り上がった。
それはどんな間取り?とか何の設備が欲しい?とか家に求めるモノではなくて、これまでどこでどういう生き方を過ごしてきて、これからどんな暮らしを送りたいかが話の中心だったからだと思う。

一月後のオープンハウスで、設計したお宅を見に行く約束をして帰宅後のこと。
コンペ参加をお願いしようと妻に言うと、話が分かりあえて、実際の建物もいいんだから、決めていいんじゃないかな、と彼女は言った。

僕は元プロジェクトマネージャー、相見積やRFPが当たり前の世界で生きてきたし、個人で何か買うときもまず価格コムを見て決める。
価格以外の要素も考慮しなくてはいけないサービスの場合は表を作り、各要素を比較して点数化し決めてきた。

そんな僕にとっては、そもそもコンペをしないという発想が存在しなかった。

妻は理論的には反論しないし、うまく言語化できないけど、引っかかるものがあるようだった。
こういう時はロジカルに僕が正しいと思っていても、いったん立ち止まって考えたほうがいいのは、7年の結婚生活で明らかになっている。

なぜ、コンペをしたいのか考えてみた。
もっといいプランが出てくるかもという欲があるからだ。

 

便利な時代に生まれて、買う側が売る側を選ぶ立場なのが、当たり前だと刷り込まれていた。

でも妻が感じているのは、いつもの買い物をするみたいに、いろんな事務所を比較したらいいものが手に入るのだろうか。
比較のため物のように扱って並べることで、自分にできない仕事を尊敬しながらお願いする気持ちが損なわれるのではないか。
そんな感情なのだろうと思う。

逆にコンペをしないことによるデメリットってあるのだろうか。
 - 一任したら手を抜かれるんじゃないか?
家は芸術、建築家にとっては大切な作品でもあるし、話をして建築が好きで真摯に仕事しているのは分かっている。

 - あれこれ見て選ぶのに比べて可能性が狭まる?
月に家を建てるのでなければ、重力や物理法則、法規制、そしてコストの制約の中で建築を追求しなくてはならない。
限られた時間とコミュニケーションの中で、一発のプランを何社かが作るのと、じっくりと時間をかけ話をして考えるのとで、後者のほうが本当に可能性が狭まるのだろうか。*2

ひとつ分かることは、コンペをして決めたら、そのプランから大幅に変わる設計にならないだろう。
できたものを選ぶのではなく、一緒に考えて作る。僕らの考えは決まった。

 

設計事務所決定

1月後のオープンハウスで再会した際に、その場で設計をお願いしたい旨を伝えた。
コンペ予定と言っていたし、見積やプランはまだ何もなかったので予想外だったようで、ちょっと驚いた顔だった。
そのままどうしてお願いしたいと思ったのか、建物を見て感じたこと、家は買い物のように扱いたくないし、駆け引きなく決めたい旨をお伝えした。

結局他の建築家さんと会うことも話をすることもなかったので、もしあの時カフェで思いつかなかったら、どうしていただろうか。
たぶん「長野 設計士」とか「軽井沢 建築家」などで調べていたのかな。それでもたくさん出てきてどうしていいかわからないから、雑誌から何社か相談してコンペをいたのではないかと思う。

それは決して否定しないし、また違った出会いがあったのかもしれない*3 けれど、僕らは今回の家づくりにとても満足しているし、そこで過ごしてみて「いいなと思う建物」を作った人にお願いできてよかった。

 

*1 その後モデルハウスを建て、若い人を営業にしたみたいで驚いた。
*2 実際初期段階で4つスタディがあったが、とことん考えていただいた第一案ではその4つとも似つかない全く違う形状になった。
*3 雑誌掲載は広告宣伝費用が必要だから、ある程度従業員を使ってビジネスしている会社が多くなるし、設計事例も写真の撮り方で受ける印象がかなり変わる。
 

そして土地購入へ (交渉、諸費用について)

ショッキングな前回から、定期的に検索し不動産屋さんにも聞くけれど、ぱたりと新しい物件が出てこなくなった。
御影用水周辺エリアは物件が出るとすぐ売れていく。新しい物件が出たら教えてくれるよう不動産屋さんに頼んでいる人もいるそうだ。

そんな中、半年間売れ残っている物件が気になっていた。少し横長だけど、きれいな四角形で接道も悪くない。
動きがないのは、坪単価が高めでおまけに古家付きのせいだろう。

御影用水エコハウス古家

 
 

値引き交渉はアリか、ナシか

その別荘は、画家の老夫婦のものだった。
かつて夏になると家族で滞在し、アトリエとして使っていたのだという。

希望する不動産が、分譲地と違い、一つとして同じものがない場合、値引き交渉はアリか、ナシかは難しいところだ。
売主側にも思い出など愛着があったり、購入者を選ぶ権利はあるので、あまり気分を害することはしたくない。
 
だけど本当にそこに住みたくて、予算が限られているのなら、不動産会社を通じて聞いてみる価値はあると思う。
もし提示額が低くても、不動産会社経由なら失礼のない聞き方をしてくれる。

さて、土地は決まった。

 

諸費用はどんなものがあるか

不動産を購入する場合、土地の価格にあわせ、以下費用が発生する。

1. 土地代金 ここでは仮に2,000万円とします。

2. 収入印紙 契約書に貼付けする印紙。2018年3月31日まで軽減措置で1千万円を超え5千万円以下は1万円の印紙が必要。

3. 仲介手数料 不動産会社に支払う費用。 通常売買価格の3%+6万円+税なのでかなりの金額になる。土地が分譲地タイプなどで、売主から直接購入する場合は不要。

4. 登記費用 司法書士に支払う費用。長野でも東京でも2017年初めの相場で4万円程度、地役権設定等があると少し高めになる。

5. 立ち合い費用 司法書士が立合いする費用。司法書士事務所の考え方で不要の場合もある。

6. 所有権移転登録免許税 2019年3月31日まで軽減措置で1,000分の15を登記時に納める。司法書士にまとめて支払う。

7. 不動産取得税 不動産取得税は後日請求が来る。課税標準額(2017年時点、固定資産税評価額×1/2)の3%(これも2017年はじめ)
家を建てる場合は軽減できるので、忘れずに申告しよう。

8. 固定資産税 中古車を買うときに自動車税を月割りするように、不動産の場合も固定資産税を月割りまたは日割りで支払う。あらかじめ不動産屋からいくらか連絡があるので、お釣りの内容に準備しよう。

9. その他 司法書士に渡す住民票、印鑑証明や、自分の交通費。
 

はじめて土地を買うので、代金のほかにも結構大きな金額が必要になるのに驚いた覚えがある。
 

そして購入へ

決済は、東京都心の某ホテルラウンジだった。
各種契約書にたくさんの捺印をし、小切手をお渡しし、司法書士がそれを見届ける。

”むかしは毎年、夏の間過ごしたの。子供たちも軽井沢に行く前の日からよろこんで。絵をかいたり、食材を買ってきてみんなで料理したりして過ごしたわ。

もう建物が傷んでしまって、私も足が不自由になったから、車に乗せてもらって軽井沢に来ると、道路から庭越しに見て、ホテルに泊まるの。

定住?地元なのね、若い人に住んでもらえてうれしいわ”

と少し寂しそうに話してくれた。

こうして2017年2月、土地探しは終わった。

エリアを絞ってからの、土地の探しかた

さて、追分の御影用水周辺で土地を探し始めた。

御影用水周辺では、2016年9月当時、6箇所の売物件が有り、ひとつひとつ現地を見て回った。
軽井沢での土地探しは普通の市街地で分譲地を買うのと異なり、いろいろな点を考慮する必要がある。

晩秋の御影用水

 

用途地域

用途地域とは何でしょうか?土地を買う前は気にしたこともない人が多いでしょう。

用途地域(ようとちいき)とは、都市計画法の地域地区のひとつで、用途の混在を防ぐことを目的としている。住居、商業、工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、第一種低層住居専用地域など13種類がある。
Wikipedia contributors. “用途地域.” Wikipedia. Wikipedia, 18 Jan. 2018. Web. 18 Jan. 2018.

簡単に言うと、自治体がそのエリアはどのように使うか定めるもの。
軽井沢で家を建てるために土地を探すと、「第一種低層住居専用地域」か「第一種住居地域」のどちらかまたは「無指定地域」になるだろう。

一見どちらも住宅しか建てられないように聞こえるが、気をつけなくてはいけないのは、「第一種住居地域」というのは住宅だけのエリアではない。3000㎡までの店舗・事務所・ホテル・ガソリンスタンドなどが認められている。
住居地域だから家の周りに家しか建たないと油断していたら、軽井沢町独自の規制はあるが、結構な大きさの商業施設が作れてしまうのだ!

また軽井沢の第一種住居地域は、建ぺい率60%。
試しに下のように絵を書いてみたけれど、かなり圧迫感がある。

一般的な住宅地と同じで、木々を残した雰囲気にするにはもっと厳しくないと無理だろう。

 

建ぺい率比較

 

一方「低層住居専用地域」であっても家だけしか作れないというわけではなく、住居併用型の飲食店などは、建物の1/2以下で50㎡までの範囲で作れる。
散歩中に立ち寄りたいカフェや、近所の人が使う惣菜屋などは営業可能だ。

また軽井沢の第一種低層住居専用地域は建ぺい率20%。建物を立てても、充分緑が残る。

この用途地域 ー ゾーニングのゆるさが海外の美しい街並みと、日本を分けている最も大きな要因のひとつだと思う。田舎だと、景色が綺麗で住宅がポツポツある場所が準工業地域になっていて、ある日工場ができたりする。

実は各自治体の役所に行かなくても、どこがどんな用途地域かは、長野県統合型GIS「信州くらしのマップ」で確認できる。
※法令、規制 → 都市計画情報 と進んで左側で用途地域を選択。いろいろなレイヤを重ねられるけど、見にくいので絞るのがオススメ。

重いので、軽井沢の場合はこの地図をご参照下さい。丸の中に建ぺい率、容積率が書いてあるけれど、自然保護対策要項で別途規制がかかるので注意。

今回は、周りの将来的な景観のことも考え、「第一種低層住居専用地域」はマストとした。

 

接道状況

軽井沢の別荘地は、個人や法人所有の道路が多い。
分譲地と違って当然通行地役権なんて設定されておらず、公道扱いでも維持管理は住民だったりする道路もある。

また冬のことを考えると、自治体の除雪車が通るのは、自治体が管理する一定レベルの道路(公道)で、更に舗装路の必要がある。

自分たちが探している土地に通じている道が、公道なのか私道なのか、公道にしてもどういう性質のものか?どう調べるか。
町役場の窓口に行けば、管理しているかどうか分かるので、本気で絞り込んだあとなら、不動産会社に聞けばどういう道路かすぐ調べて回答してくれる。
もしそれができない不動産会社とは付き合わないほうが良い。

 

また別荘地によくあるのが旗竿地。長いアクセス道路は、除雪が大変なのと、建築時水道を引き込む費用が多めにかかる。
その半面、より自然に囲まれる感は強いと思う。また道路から離れているので、子供を遊ばせるのも安心。別荘地の中でも、信号がないからかすごいスピードを出して通る車は多い。

僕の場合は仕事柄災害時に出かける必要が考えられるので、舗装された公道に接道している事が望ましいと考えた。

接道状況

 

ハザードマップ

軽井沢に限ったことでなく、土地を探す際は災害に強い土地かどうかが重要。
不動産屋では積極的に教えてくれないけれど、例えば河川に近く低い場所は水害の危険性があったり、というもので、各自治体が災害時にどうなるか想定し、公開している。

軽井沢特有といえば、浅間山関連と、急傾斜地が多いので土砂災害警戒区域が結構多い点になる。

Webで見にくい場合は町役場に行けば、配布用のものが置いてある。どちらも追分の僕らが探しているエリアでは関係なかったので一安心。

 

土地の大きさ

軽井沢は条例で第一種低層住居専用地域は300坪以下の分筆は禁止されている。

これ自体は素晴らしいことだが、御影用水徒歩エリアは人気が高いからか、周辺より坪単価が150%ほど高めだった。

そのため土地の大きさもあって、別荘をつくるために土地を購入する富裕層には問題なくても、僕にとっては田舎に家を建てるイメージの土地代からとは大きく乖離してしまう。

大きな土地が無理なく買えれば問題ないが、予算配分で、よい建物が建たなくなってしまっては意味がないと考えた。

土地の大きさ

 

僕が建てる家は大きくてもガレージ込みせいぜい40坪程度、建ぺい率からは20%の場合200坪あれば問題ない。
昭和43年の条例施行前に分筆されていた土地については300坪以下のものも存在し、そうした200坪弱の土地なら、一般的な大きさのものより800−1000万円近く安価になる。

もちろん敷地は広くて困ることはそれほどないので、資金があれば大きい土地がいいけど、予算配分で建物の素材やスペックを下げることになったり、今後の生活において、住を充実させたばかりに衣食、趣味や余暇を楽しむ余裕が無くなるのであれば、適切なサイズの土地を選ぶのもいいのではないか、と自分を納得させた。
ホントはちょっと悔しいけれど。

実際のところ僕の場合、土地探しを始めた時点では全く建物のイメージがなかったので、少し狭くても手元の貯金で購入でき、のちのちの設計建築にも影響のない範囲を上限とした。

 

古家付きについて

僕が探していた頃、見た土地の半分は古い別荘が残されていた。

一般的な解体費用の目安は3-5万円/坪必要になる。保守的に見積もると土地の費用に加え200万円の解体費用が必要になる計算だ。

ただし、古家の無い土地とそこまでの価格差がつくかといえばそうではない。分譲地ならともかく、軽井沢の別荘地で雑木林っぽいところを買うと、
 ・樹木伐採費用(30-50万円)
 ・水道引込費用(10-100万円)

といった費用が必要になることが多い。
建物解体時には重機が入るので、解体と同時に伐採することで、この費用をを大幅に減らすことが可能となる。

また、古い家があれば井戸水でない限り水道が引き込まれているので、権利負担金(13mm,20mm)や工事費が不要になる。
水道引込費用の幅が大きいのは、軽井沢の場合距離が長い場所が多いのと、取り出しが舗装されている場合は舗装復旧も必要になるので、個別見積しないと何とも言えないからだ。

軽井沢に限った話ではないけれど、いいなと思う場所ほど昔から人が住んでいたりする。
また見た物件の中には、壊すのがもったいなくリフォームすれば住めるなと思わせる建物もあった。

 

そこで壊すことになっても、水道と樹木伐採を考えれば解体費用とそれほど差がないので、古家付きでもOKとした。

軽井沢町の、どの地域に暮らすか

さて、軽井沢町の中でどこに住もうか。

 

週末お店でご飯を食べたあと、周辺を散歩したり、ホテルに泊まって在住気分を味わいながらエリアの絞込を始めた。

 
軽井沢は広い

軽井沢町は、実は広い街。軽井沢町には「軽井沢」「中軽井沢」「信濃追分」と駅が3つある。

軽井沢駅周辺(旧軽井沢、新軽井沢)には由緒正しく美しい別荘地が存在する。

ただ、どこでも峠の近くはそうなのだが、湿気が多め。(それが美しい苔をつくっているのだが)
またアウトレットがあるエリア周辺は、GW、夏季休暇期間は渋滞がひどいイメージがある。

 

定住にはどうだろうか。昔から地元の定住者が多いのは中軽井沢である。スーパーツルヤや銀行、役場、病院などの機能も集中しており生活しやすいと聞く。ただしやはり夏季の渋滞は避けることができない。

 

渋滞が比較的少なく、天候にも恵まれているのは軽井沢町の西側、佐久に隣接する信濃追分周辺。
佐久地方は晴天率の高さで知られており、積雪、湿気も多くなく気候が安定していて住みやすい。*1

定住を考えても御代田や佐久方面のスーパーに出やすいし、土地の価格もまだ割安である。

 

御影用水との出会い
ある日のこと、家族で軽井沢で朝食が一番美味しい店と言われる、追分の「キャボットコーヴ」に行った。
その時は店の外に待っている人が見えたので、お店に寄らずに、ほかのお店に行こうかと近くを回り道したところ、そこに流れる御影用水と出会った。

9月末の御影用水

 
正式名称「千ヶ滝湯川用水温水路」、千ヶ滝から小諸市まで流れる御影用水延長約21kmの中で、水温を上げ収穫量を増やす目的から、この場所で幅を広くしている。

最近ではこの1km程度続く温水路が「御影用水」と呼ばれており、ふるさと信州風景100選に、軽井沢町で唯一選ばれている

幅広な水辺の両脇に木々が紅葉しはじめ、別荘が点在している。
別荘と水辺の間には遊歩道が緩衝地帯となっており、ペットを連れた親子やカップルが散歩をして休日を過ごしていた。

ずば抜けてきれいな浅間山が見えるとか、名勝とかではないけれど、僕らの心を強く惹くものがあった。
初めてなのに、なんだか懐かしさと安心感を覚える不思議な景色。

観光地で売られているポストカードのようなわかりやすい風景ではない。けれどもその佇まいと、そして挨拶を交わし行き交う人々には日常生活の穏やかな楽しみが見てとれた。

 
ここに住みたい。Uターンして1ヶ月程度、早くもエリアは決まった。

*1 追分の魅力について語りたいことは、すでに全て#軽井沢から通勤するIT系会社員のブログに書いてあったのでご参照ください。

軽井沢との出会い(再発見)

醜い景観を感じる眼

17歳まで佐久で生まれ育った僕は、当然軽井沢が避暑地であることは知っていた。

ただ、そのころは夏休みに国道18号がとてつもなく渋滞するから近づかないとか、ふらっと入るとコーヒーで1杯1000円とる店があるとか、高校の同級生が住む軽井沢の家は洗濯物が湿気が多くて全然乾かないらしいといった程度の認識だった。

18年後Uターンで佐久に戻り、週末に家族で出かけるようになってから、別荘地に美しい町並みが存在することに気がついた。
なぜ昔は気が付かなかったものに気がつくようになったのか。

実家を出て19歳のときに、遅めデビューで海外に行き、その後幾度となく旅行、出張で美しい街並みに触れたからなのかもしれない。

 
ニューカレドニア(ヌメア)

 

むかし瀬戸正人先生に写真を教わっていた頃、よく言われたのは「いい写真を見て、これはいい写真だとわかるには、写真を見る目を育てる必要がある」ということだった。

先生の言葉を借りれば、人間の感性は訓練する必要がある、洋服などは毎日考えるけど、普段考えないものは意識しないとセンスが育たないのだと言っていた。

美しくないものを見慣れてしまって気が付かなかったけれど、街並みにも同じことが言えるのではないか。

 

規制の厳しい軽井沢町

軽井沢の別荘地に美しさを感じてから、なぜ実家周辺とは地理的に近くにありながら、そのような違いが出るのかを調べてみた。

軽井沢は昔から美しさを大切にしており、看板は景観条例で高さ、大きさ、色が規制されている。

リンク先の通り、郊外のロードサイドによくある奇抜なものは出せない。別荘地によくある案内板だって、

別荘を所有されている皆さんや、町に住んでいる皆さんが自分の家を他の人に案内するために設置する看板は、「幅が12cm、上の辺が45cm、下の辺が50cmの矢じるし形の板」へ「焦げ茶色の地に白文字」で書いたものを使ってください。
なお、この規定に沿った案内板を町環境課の窓口で配布していますので、ご自身でお名前などを書き入れてご利用ください。

自然と統一感が生まれるわけではなく、やるべきことをやっているのだ。
 

建物についていえば、別荘地は条例で1区画300坪以下に分筆はできない。道路後退5m、隣地後退3mと定められている。

軒を最低50cm出した建物で、屋根勾配や外壁の色も規制の対象となる。

個人的にはもっと厳しくてもいいと思うけれど、こうして日本にしては厳しいレベルの規制がされているので、美しい街並みが保たれていることがわかった。
 

軽井沢に住む

今はそうでもない*1 けれど、そのうち街並みが土地の価値を左右するようになるだろう。

統一感のない街並みをつくる建物群や廃屋、せっかくの浅間山がある景観に飛び込んでくる、けばけばしい看板類にうんざりしていた僕は、軽井沢町に住むことに決めた。

*1 2016年末頃の軽井沢町追分の坪単価は、佐久市内の主な宅地の半額以下だった。
 

↑その後土地探し中に「ニッポン景観論」を読んだら、感じていたこと、言いたいことが全て書かれていて驚きました。
土地探し前に一度読まれることをおすすめします。

土地探し前夜 生まれ育った場所に感じ考えたこと

僕の育った実家は、庭先には田んぼが広がり、少し歩けば道路わきには蛍の住む川が流れていた。

幼いころの僕は、田園風景に囲まれた中を、春にはあぜ道でヨモギを摘み、家でそれを祖母と母が草餅にする。
秋には金色に穂を垂れた稲にいるイナゴを捕まえては、それを祖母と母が佃煮にする。

今思えば穏やかで心地よい田舎の幼少期であった。
 


水田 © 菊池市 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

 

世の中がバブル景気を謳歌していた小学校高学年のころ、実家周辺に新しい国道が開通し、その両側にはチェーン店が立ち並び始めた。

全国均一な郊外の風景、強烈に覚えているのはパチンコ店の看板である。それは極めて大光量で、その方角の夜空の色をこれまでの青黒い色から赤紫に変えていた。

 

僕の出身地 - 佐久市と合併する前の臼田町 は宇宙観測施設を有し、「星の街うすだ」を標榜していた。

バブル期の田舎町の例に漏れず、各所に謎の造形をしたモニュメントを設置したり、「星のふるさと」なんて歌を作ったりにお金を使っていたけど、いちばん大切な星の見える環境を守るためには、何をしていただろうか。

 
 

20数年後、実家を離れ東京で暮らしていた時のこと。ハワイ島に当時勤めていた会社の保養所があり、両親と妻、子供を連れ6人で旅をした。

空いっぱいに広がる星を見にマウナ・ケアへツアーをした私たちに、ガイドさんが教えてくれた。ハワイ島はその美しい景観を守るために看板類は規制され、そればかりか良好な観測環境を守るため照明はすべて空から届くことの無い波長のオレンジ色で統一されている。

 

 

 

 

その頃にはかつて実家の庭先にあり青々としていた田畑は姿を消し、砕石で締め固められた上には車両が置かれていた。

駐車場とかそういった類のものではなく、近所の修理工場の道を挟んで、部品とり用なのか何なのか、修理を待つわけでもない古い、走らない車がただただ置かれているだけの場所。

 
毎日歩いて通った通学路は、目の前に古タイヤが積まれた交差点になった。かつて眺めたバイパス沿いのパチンコ店は廃業し、廃墟となった。その錆びついたネオンは消えているが、すぐ横にはさらに大きなパチンコ店ができ、けばけばしい色の看板と幟で人を集めている。

田園の中に切妻屋根が三角形の家としてぽつんと存在していた風景は、そういう場所の中に埋もれてしまった。

 

 

両親がツアーガイドに住んでいる街のことを聞かれていた。僕は言えなかった。

僕は生まれ故郷には東洋一のパラボナアンテナがあり、星の街を標榜しているんだと。その環境を守り次世代に残すために、どんな努力をしているかと。

蛍を見なくなってから、もう何年たっただろうか。

 
・・・
 

結婚前、当時社宅のあった代官山と恵比寿のあたりには感じのいいお店が多く、休日にプール帰りテラス席でビールを飲んだり、まれに平日早く帰ってくることができれば友人と食事を楽しむ時間が幸せだった。

結婚することになり、景色だけで東京タワー目の前にあった古い小さなマンションの最上階を借り、ダイニングは北欧で作られた木製の折りたたみ可能なテーブルを揃た。
ちょっと気分転換にテラスで食事をしたり、花火大会の日には屋上にセットしたりした。

子供が生まれてからは仕事の関係もあり、タワーマンションに引っ越しした。
ちいさなベランダに無理やりテープルを出して食事をしたら、ビル風がすごくて大変なことになったけれど、隅田川テラスを散歩したり、お弁当を作ってピクニックしたり。

毎週金曜は早く帰り、気の利いたカフェが近くにあってテラス席で食事ができた。
 

ライフスタイルの変化に合わせ平均2年に一度引っ越しをし、自分が暮らす場所の雰囲気と景色には気を使ってきたつもりだったけれど、出張や旅行の都度、海外の街なみに感じる美しさに、どこが違うのだろうといつも思っていた。

建築物でいえば日本は美しいものが沢山あるけれど、例えば素晴らしい家を紹介する雑誌を見ていても電柱、電線が邪魔していたり標識や看板が主張していたり、近所の家と全く雰囲気が違ったり、いわゆる美しい街並みというのとは何かが違う。

 

 

この時から、自分が将来建てるであろう家の、その場所を、具体的なイメージを持って探し始めた。

例えば民地を挟まず南側に大きな公園が有る敷地はどうだろうか。リビングからの景色に余計なものが映り込むことはない。春が訪れ桜の花が満開になる頃には素晴らしい眺めになるだろう。

しかし生活するとなれば家の外に出て、帰ってくる。いくら家の窓からの眺めが変わらなくても、家の周囲に醜い看板をたてられたり、遊技場を作られたりしない保証はない。

また高台、川沿いなど景観の良い場所に限って崖崩れ、洪水などのリスクがあるハザードマップの範囲内だったりする。

 


 

いっそのこと、周囲に何もない土地を買ってはどうだろうか。人里離れていて坪単価が安ければ山一つ買うことだってできる。

でもお気に入りの店に子供と手をつなぎ歩いてランチを食べに行ったり、夜ふらっとバーに行ってそこで合う友人たちと話をしたり、そんな生活が長かった僕にはもうわかっていた。

僕は気の合う人と話したり、関わり合うのが好きで、周りに誰も住んでいない、気の利いた飲食店が近くに無いような場所には住めない。